リポート

事故は起こるべきして起こった
笹子トンネル事故で判明した以外な事実
NEOS編集顧問 小野博之

  昨年末発生した笹子トンネル事故には驚かされた。その詳細を知るに及んで、これは起こるべきして起きた事故、いわば誤った設計による人災事故であることを確信した。
 1枚1.2トンにもなるコンクリート板を長期にわたって吊りボルトだけで支持させる事自体が無謀という他ない。吊下げた物体は物理の法則によって必ず落ちる。吊りボルトは経年によって腐食するし、ボルト周辺コンクリートのクラックの発生、接着剤の劣化等が発生するだろうが設計者はそのことに思いが及ばなかったのだろうか。施工後35年というから、むしろ今まで持ったことが不思議なくらいだ。一昨年の原子力発電所の事故では想定外という言い訳が聞かれたが、今回のトンネル事故でも経年による劣化は想定外だったとしか思えない。
 今回の場合は、天井懐が高いからトンネルの中央から両端に斜めの圧縮材を入れてトラス構造にして、せん断ボルトで支持するのが最良と思われるがなぜその発想が浮かばなかったのか。
 さらに奇妙なことは、建築では引張力に対して後打ちアンカー(ホールアンカー)もケミカルアンカーも禁止されてきたのに、より長期間存在し、万一の事故において被害が甚大になる土木工事では堂々とまかり通っていた事実である。つまり、建築には建築基準法が適用されるが、土木においては適用外という不可思議な指導だ。
 事故後国土交通省が緊急点検した結果、事故のトンネルだけで1200カ所の不具合がみつかったとのこと(1月10日付朝日新聞)。その多さにも驚かされるが、近年は目視程度のチェックしか行われてこなかった安易さも問題だろう。本来は古くなるほど綿密な点検が必要なのに逆なのだ。ドライバーは地獄の1丁目を通らされていたようなものだ。
 しかし、意外だったのは今回の事故で判明したケミカルアンカーの予想以上の強さである。土木工事においてこれだけ大々的に使われてきたケミカルアンカーが、この事故で初めて脱落したということはむしろこのアンカーの意外な信頼性を示すのではなかろうか。
 従来、袖看板の設置にあたりコンクリートの打設時に埋め込まれたもの以外認められないが、コンクリート柱の主筋をハツリ出し、それにアンカーボルトを溶接することは認められていた。しかし、それでは建築本体の強度が弱くなる。しかも現場でハツリ出した鉄筋にアンカーボルトを溶接することは図面に書くほど容易なことではない。完全な溶接を行うには柱のかなりの部分を壊すことになる。業者仲間では申請図面上はそのように書き入れ、実際はケミカルアンカーで施工していたやにも聞く。しかしそれが原因で看板が落ちたという話は聞いた事がない。
 今回の事故後、私は某構造設計事務所に訊いてみた。それによれば、ケミカルアンカーを認めなかった役所も大震災発生後はそうもいかなくなったようだ。建築基準法上の必要強度が格段に高められた結果、それ以前に建てられた建築の補強が必要となった。それにはケミカルアンカーの使用が必要不可欠なのだ。今まで建設省が断固として認めなかったケミカルアンカーを地震発生によって認めたということは皮肉な話だが、役所の場当たり的な行政姿勢を示すものでもある。
 ともあれ、袖看板の設置にあたって我々が悩まさせられた問題が解決したわけだが、その看板工事の需要がとんと戻らない点が現今の最大の悩みだろう。


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