NEONミュージアム

仙台のランドマーク・オリンパスネオン広告塔
(株)昭和ネオン 常務取締役 佐藤 好規

  平成2年後半、某広告代理店仙台支社様より仙台有数のモール、中央通り商店街の某ビル丸型ラセン階段外壁に半円形広告塔(高さ24m×円周7m)の広告主未定の企画依頼がありました。当時私は42歳で気力・体力が充実しており、セールスエンジニアとしての自負を持ち、怖いものなしでしたので、どんな仕事でも来いと真っ向勝負を挑みました。
  しかしいざ取り掛かってみると、ビル側主張の媒体高賃料、丸型絶壁外壁による難工事の製作費高、さらにこの個所は広告媒体効果抜群ゆえの仙台市道と国道4号線(おのおの1m出る)の交差点角地で市道・国道の多額の道路占用料(毎年発生)等難問が続出しました。とりわけ、@建築基準法によるラセン階段に広告塔設置が構造的に許容可能か、A火事の際の排煙のため階段外壁に規則正しく吹き抜け窓が設置され、広告塔でおおい隠すと排煙効果の妨げとなり設置不可のリスク、B当時の市道・国道の道路占用許可が営業拠点以外へは許認可付与の難しい状況など公官庁許可関係の問題のクリア困難が予想されました。   
  この様な処理・交渉は自分自身のモチベーションの維持、人件費とその他費用負担が生ずるので概ね目途の付く広告主の候補がないと、交渉活動の持続が不可能な旨を広告代理店に話した処、広告主は「オリンパス」様、但し対外的にはこの名前を出さないことを告げられました。付随する種々の業務を代理店と話し合い、媒体賃料(仕入れと売り)・道路占用料・総合製作費の交渉は代理店、広告塔本体関係の見積もり、工作物確認申請・市道・国道の許可申請交渉は弊社が行う処と成りました。
  前述のラセン階段の排煙については全個の窓はふさがず、広告塔の上下の板金はなしの吹き抜けで排煙するよう指導を受けクリア、広告塔設置による建屋検討計算はOKとなりましたが、予想した通り市道・国道の道路占用許可交渉は難行苦行となり、官公庁の受付カウンターで門前払いの連続で許可を頂く事に絶望を感じました。
  一方代理店は、ビル・オリンパスの交渉状況では総合製作費以外は何とかなる見込みで進んでいましたので、代理店より道路占用の交渉を進めるよう連日懇願されました。
  これにはある時は圧力を感じ気が滅入ってしまいながらも、この際、開き直りでデザインを見せて交渉をするので、今まで役所と事前折衝で言外に感じた「地域貢献」のデザインでしかも「企業・商品名は最小」にして下さいと、代理店に申し込みました。すると今度は代理店より地域貢献とは何ぞや、広告主が金を掛けるのに企業名等表示を最小とは何たることか説明を求められる事となり、当方はデザインに関しては素人なので返答に窮し、口から出まかせに仙台なので牛タン・笹かまぼこ・伊達正宗の例もありましたが、ノーセンス・旧弊と感じられたので老若男女共通の「七夕」の例を放言し、元々難題処理を行うに当たりデザインも無しに関係役所と交渉している弊社の立場も代理店さんは考慮して下さいと言い放ち、一種の「喧嘩状態」で事態は膠着状態となり、この話はこれで終わったと思い暫く放置していました。
  その後、オリンパスの数々のネオンサインを手がけた有名某デザイナーによる「宇宙」をイメージし、併せて「オリンパスの技術」の高さを示すデザインを頂きました。見方によってはこのデザインは七夕を充分感じさせるものでしたので、このデザインならば役所との最後の勝負をかけられる感触を得、代理店スタッフ同行のもと仙台市役所に道路占用の交渉に入りました。カウンターの受付も無事通過し担当責任者に直接デザインを説明する次第となりました。アナログ時計は市民待ち合わせの「ランドマーク」、全体画面は「オリンパス協賛の七夕まつり」とこちらのコンセプトを伝え、今迄何回もカウンターにて門前払いされた苦労も述べた上、何とか許可を頂きたい旨を臥して懇願しました。やがて市役所より道路占用許可の方向を告げられ、その後建設省仙台国道事務所(現国土交通省)の交渉も難色を示されながらも仙台市役所が許可の方向なので前向きに検討して戴き、めでたく許可の方向となりました。
  以上の役所交渉を成功させた後、代理店スタッフに同行しオリンパス本社にて、宣伝部の担当者、有名某デザイナー、弊社の応援スタッフと数回に渡り製作予算とのバランスを保ちながら詳細な打ち合わせを行い、デザイン・設計修正を繰り返し設計図の完成となりました。
  製作にかかると半円形に3次元曲線3層ネオン管の製作原寸が平面の紙で取れないため、原寸大の一部を木製の長さ3.5m×円周3.5mの円筒形を造り、手間暇を掛けて1,200m以上の原寸とネオン管を製作したため、ネオン工事士・ネオン管技工士には大変な御苦労をかけました。現場は交差点角地のため仮設足場設置は難しく納期も迫っていたため円筒形を4等分し、工場にて組み立て・ネオン工事を行いトレーラーにて運搬、3晩をかけて円筒4ピース、時計1ピース、保守梯子を大型レッカーで道路上にて再組み立てを行い、円筒階段壁面に取り付け、分割円筒形にまたぐネオン管を現場にて着管、電子点滅段数223段も全て現場にて結線しました。
  試験点灯では電子点滅機の優れた複雑点滅の技術力の助けを借り、広告面の様相は正に宇宙空間の大画面に躍動感・気品・華麗さ・芸術性に驚嘆・感激し役所、広告主やデザイナー、代理店、工事に携わり援けてくれたスタッフ全てに感謝した次第でした。
  後に手前味噌ながら、小生の長男より「仙台の中央通りにすごいネオンができたの知っている」と質問され、息子に胸を張って説明でき父親としての満足感にひたりました。
  残念ながら本物件は平成15年4月撤去になり現存しませんが、電通賞に輝いた思い出の作品の一つとして、自身の仙台時代の最大の思い出として心の中で今も輝き続けています。

施主:オリンパス光学工業(株)
設置場所:仙台市青葉区中央2-3-18
デザイン・設計:遠藤 享
施工:鰹コ和ネオン
仕様概要:高さ18m×円周7m/ネオン管使用総長1200m/電気設備総負荷容量26kVA/鉄鋼重量10ton/総重量12ton
資料・写真提供:(株)マスコミ文化協会 月刊『サイン&ディスプレイ』

 



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