最前線シリーズ

 

「タブレットサイネージ」の最新事情

月刊『サイン&ディスプレイ』編集部 青木利典
双方向性という特性が売り場に賑わいをもたらした
 iPadやAndroidのタブレットが世間に普及するのと同時に、デジタルサイネージの世界でも「タブレットサイネージ」(※呼称はさまざまです)を売り込む企業が増え、展示会などで見かけるようになりました。
  用途としては、駅構内などに見られる広告配信モデルではなく、流通・小売店における店頭販促用です。「タブレットサイネージ」が従来の「電子POP」よりも優れている点は、単に映像を流すだけではなく、タッチ機能によって来店者が商品を検索できるなど、双方向のやり取りが可能なことです。
  現状で、店頭販促用途の導入事例はわずかに見かける程度ですが、その中でも私が最近の取材活動で知り得た成功事例は、某大手文具メーカーがボールペンの販促に利用したものです。そのメーカーは新製品の多色ボールペンのプロモーションとして、“色占い”のコンテンツを作りました。好きなフルーツやスパイスを何種類か選択すると、全30色のカラーがラインナップされている中から、オススメの品を選び出してくれるのです。この色占いを、ウェブサイトと店頭販促で展開し、店頭では7インチのタブレットサイネージを活用。全国で300店以上の小売店に設置しました(文具メーカーの予算で機材とコンテンツを用意して、店舗に置かせてもらっています)。色占いは、ターゲットを女子中高生などの若い女性に絞った戦略です。これが見事に当たり、複数で連れ立った女子高生が色占いに興じて、売り場に賑わいをもたらす結果になりました。
  気になったのは「これによって販売本数はどのくらい伸びたのか?」ということだったのですが、メーカーの担当者に聞いたところ「売れるかどうかは販促施策も重要だけど、売り場でエンド(陳列棚の両端)を確保できるかどうかに懸かっている。エンドを取るためには、店舗側担当者の関心を買うことができる販促施策が必要。今回のタブレットサイネージは、エンドを取れた店舗に設置しており、それらの店舗では『売り場に活気が出た』など、おおむね高い評価を受けた」とのことです。
  私が当初考えていたサイネージの成功とは単純に「売り上げアップ」だったですが、メーカーにとっての成功の概念はもう少し複雑で、「売り上げアップ」は当然のこととして、「売り場にお客さんを集めて店舗側に喜んでもらう・売り場作りに貢献する」といったことも含まれていたのです。

中華タブレットを採用してコストカットを図る
  私はその後、文具メーカーに機材を販売した会社にも取材しました。タブレット本体は、アップルや国内大手メーカーではなく“中華タブレット”と言われる中国製品を使うことでコストカットを図っていました。コンテンツについては、ウェブ素材を簡単に2次利用できる仕組みを作り、コンテンツ制作費も抑えています。さらに、本体のホームボタンやボリューム、電源などのスイッチ類の操作を無効化するアプリを独自に開発して、搭載しています。
  この“ボタン操作を無効化するアプリ”はとても重要です。昨今の展示会などで見かけるタブレットサイネージは、見学者もスイッチ類を操作することができて、画面表示がメチャクチャになってしまう場合があります。もしくはスイッチ類を操作できないように、専用のフレームをつけているケースもあります。ですがフレームをつけるよりは、アプリによってボタン操作を無効化するほうがスマートです。
  文具メーカー事例は、販促施策と機材が優れていたこと(コストも含めて)が成功の要因です。現在では数少ないタブレットサイネージの成功例と言えるでしょう。気になるお値段のほうは、諸々の事情でここでは明らかにできませんが、本件では本体価格で3万円を切っていたように記憶しています。ちなみに、従来の電子POPの販売価格は、1万円前後から1万円台半ばといったところです。


販促の費用対効果だけでなくマーケティングツールとしても有効

  今後、タブレットサイネージが普及するのかどうかは、難しそうですが可能性はあると思います。難しいと思う理由は@価格(従来の電子POPより高い)Aタッチ機能を活かして消費者の関心を集めるコンテンツを作ることはそれほど簡単ではない、と思うからです。
  ではどこに可能性を感じるのかと言えば、文具メーカーの例もあるように、単純な売り上げアップだけでは図れない成功の尺度があるからです。導入した結果「売り場に賑わいをもたらした」というのは、双方向性のあるタブレットサイネージだからこそです。双方向性の実現という点でタブレットサイネージは、従来の液晶ディスプレイによる双方向サイネージに比べて、機材にかかる費用は安価です。
  また、タブレットサイネージをインターネットに接続して使用すれば(文具メーカーの事例は非接続)、インターネットのログ解析ツールを活用できます。私が頻繁に情報交換をさせてもらっているこの分野のスペシャリストは、「画面にタッチした項目から、売り場での来店者の要望や嗜好を解析できれば、販促にとどまらず貴重なマーケティングデータを集めることができる。マーケティングツールとしても売りこんでいけば可能性はあるだろう」と語っていました。
  現状の電子POP業界は安売り合戦であり、撤退した企業も多数あります。安売りだけではなく、高付加価値なタブレットサイネージが市場を開拓できるか、状況を注視していきたいと思っています。



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