点滅希

 
 「卵礼賛」(1)  
    

  卵という食べものには思い入れが深い。
  白い殻を割ると透明な白身とその中に浮かぶ黄身が現れる。その配色の美しさと造形的な面白さは何か宇宙的なものさえ感じさせる。ゆでれば瑪瑙のような白身と丸いほくほくした黄身への変身がまた感動的だ。
  子供時代は貴重品で遠足のときとお祭りのとき以外は病気で寝込んだときしか食べさせてもらえなかった。母が作ってくれる卵入りおかゆのおいしさは格別で、病気になって得した気分だった。ゆで卵の殻をむく時のわくわく感。朝、食卓で卵を割る時はいつも子供時代の感動がよみがえり感謝の気持ちがわきあがる。
  遠足のとき、失敗したことがある。母から渡されたゆで卵を私はそのままリュックサックに入れた。いざ食べようと思ったら、殻が割れていた。あいにく半熟だったからたまらない。リュックの底にべったりとこびりついていた。ほこり交じりのそれを指でこそげとって食べてしまったが、そのときの悔しかったこと。私の当時の夢はゆで卵の黄身を腹いっぱい食べることだった。

(愚庵)

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