サインとデザインのムダ話

 
『公共交通にシームレスサインを 』

宮沢 功
YP DESIGN 株式会社 代表取締役社長
公益社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
特定非営利活動法人景観デザイン支援機構 代表理事
富山ライトレールトータルデザイン第40回SDA大賞・経済産業大臣賞

 2020年には日本で2回目の東京オリンピックが開かれることになりました。1964年からまさに56年ぶりのことです。世間では景気の悪い状況を反映してかオリンピックによる経済効果ばかりが取りざたされている気がします。しかし、一方では1964年のオリンピックがさまざまな面でデザイン的にも多くの新しい取り組みがされたことを受けて、2020年のオリンピックはデザインによって文化的にも世界に誇れるオリンピックにしようという動きもあります。
  確かにオリンピックは世界各国から多くのお客様が訪れ、オリンピックゲームを楽しむと同時に日本の「おもてなし」を実感してもらう機会でもあります。この機会に東京を訪れた人々に東京の良いところ、日本の良いところをたくさん体験して頂きたいと考えます。そのために大切なことは安心してまちを移動できることが重要です。特にオリンピックが開催される東京は世界的にも地下鉄やバスなどの公共交通が発達していて利用しやすい環境にあります。
  しかし、それには多くの人が利用しやすいサインシステムが必要です。そのために一番大事な交通機関のサインはどうでしょうか?オリンピックが決定した直後に、東京の欧文表示の問題が指摘されていましたコミュニケーションのための言語やピクトグラムは大切な要素です。しかしそれ以上に大事なのは多様な事業者による交通サインの使いにくさを使いやすくする必要があります。人々がまちを移動するのはひとつの交通機関だけではなく、自分の足を使った歩行、最近整備され始めたレンタサイクルやカーシェアリング、そしてバス、地下鉄、鉄道、タクシーなどを連続して利用し移動します。これらの交通機関はそれぞれ事業者が異なり、個々の表記方法や色彩の意味などが異なり、相互の乗り換え情報なども途切れとても使いにくいものになっています。
  私は時々ヨーロッパに旅行すると自分の興味も含めて路面電車や地下鉄、バスなどをよく利用します。このようなときに本当に感心させられることがあります。
  ほとんどの都市では路面電車、地下鉄、バス等のサインシステムが一体的に考えられていて、情報や色彩等が表示されとても解りやすく使いやすいのです。切符やICカードなどはほとんどの公共交通で共通に使え、他の交通機関に関する乗り換え情報が、路線図やそれぞれの駅のサインによって的確に表記されています。バルセロナではレンタサイクルステーションがどの方向にあるかまで親切に表示されています。
  又、連携する交通機関の色彩もバスと路面電車、地下鉄などが共通したカラーリングにより一目で連携している事が分かります。タクシーについてもNYのイエローキャブ、バルセロナのタクシー、北京や上海でも事業者の違うタクシーの色彩が統一されていて、旅行者にはとても利用しやすくなっています。

 
  中でも秀逸なのはロンドンの交通機関を一手に引き受けているTransport for London(TfL、ロンドン交通局)のシステムです。ここのシステムは歩行者のためのサインから、レンタサイクル、路線バス、観光バス、地下鉄、LRT(Light rail transit の略、低床、邸騒音、高速化など新技術により小型軽量化した次世代路面電車)、船、TAXIまでを包括したシステムとしてデザインされています。一番わかりやすいのは交通局が管理するすべての交通機関のシンボルマークをロンドンチューブで有名な地下鉄のマークで統一し、交通機関の違いを色彩と文字によって識別しています。これによって利用者が、異なる交通機関が連携された公共交通機関である事を理解しやすくしています。又、サインに使う書体やレイアウトシステム、色彩の使い方等については、それぞれにデザインマニュアルがつくられ、わかりやすく快適に運用できる様に管理しています。関連する施設についても構内のベンチ、非常用施設、サイン本体などの主要施設に対して交通局としての標準デザインによって、安全性、メンテナンス性などと同時に交通環境の質を維持しています。

 
   

  2020年には東京でオリンピックが開かれます。ロンドンのTfLまではできなくとも世界のお客さんに東京を、日本を楽しんでいただくために、各交通機関が連携したシームレスなサインシステムと共通のデザインルールによって、初めての人にも使いやすく快適な移動が可能な公共交通のサインデザインができる事を期待したいと思います。もし、相互の調整など時間的に難しい場合でも、少なくともオリンピック期間だけでも暫定的なシームレスな公共交通サインの実現を切に望みたいものです。

 


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