ネオンストーリー

 
「故郷のわが家」
作・村田喜代子 新潮社刊


 ハックショーン! パラパラッ!
 ハックショーン! パラパラッ!
 六〇〇倍のスギの花粉はまるで南洋真珠のように薄青く輝いていました。まん丸くて涙の玉みたいに美しく光っているのでした。マツの花粉はグミキャンディーの両脇に翼を生やしています。パンダの耳みたいに黒くて愛らしい羽根でした。
 ああ。なんて林や森はカラフルで賑やかなもので溢れているんでしょう(人間の目には何も見えてはいないけど)。笑子さんは森へ入って行ったシェーファーさんの姿を目に浮かべました。スギやヒノキの森は暗いけど、あそこだって川のように花粉が流れて、ゼリーやキャンディーが飛び散っているのです。
 森は極彩色のネオンサイン。
 生い茂る木々は花粉の爆弾仕掛けです。
 パチパチ、パラパラ、とグミキャンディーの爆弾がはじけます。ここも春の戦争の真最中だわ、と笑子さんは思いました(野焼きと違ってとてもカラフルですけど)。

 
 

Back

トップページへ



2017 Copyright (c) Japan Sign Association