リポート

二人の看板文字ハンター
関東甲信越北陸支部 広報委員O
 
 NEOS読者の多くは、街を歩くとつい看板ばかり注目してしまうのでは?私も職業柄、普段から看板の写真ばかり撮っています。でも撮った写真を整理することは結構な労力を要し、スマホやパソコンに写真が溜まる一方です。
 そんなモノグサな私のような方にお薦めの本を二冊ご紹介します。この本は看板の中でも表記された“文字”に着目し、秀逸なデザインのものを厳選して掲載したものです。
 コンピュータが発達してからは種類豊富で便利な既製書体で看板が作られるようになりましたが、あえてそれらを使わない、或いは既製書体が登場する前の手書き書体というものは意外と身近に多く存在します。これらを全国域で写真に収めるのみならず、仕分け分類し、解説を加えて本にするとは恐れ入ります。看板に携わる方は仕事の資料としてきっと参考になるはずです。
 まず一冊目は、グラフィックデザイナーである藤本健太郎著『タイポさんぽ改:路上の文字観察』です。1973年生まれの著者が社会に出た頃は、既に既製書体の普及し始めでしたが、デザインの仕事を通して次第にオリジナル書体の味わい深さに魅了されたそうです。解説ではパッと見の印象に留まらず、その書体のデザイン意図を深く推察している点が非常に面白いです。特に秀逸な作品に出合ったときなどはその興奮度合いが解説に滲み出ています。本誌への掲載許可は頂いていないため、写真付きで中身の紹介はできませんので、是非お買い求めください。

 
  もう一冊は、ブックデザイナー松村大輔氏の『まちの文字図鑑ヨキカナカタカナ』です。偶然にも藤本健太郎氏と同じ歳のデザイナーです。この本には『まちの文字図鑑よきかなひらがな』という前作があります(NEOS159号面白ブックレビューで紹介)。こちらも日本中のオリジナル看板書体を集めたものですが、面白いのはその分類方法。“ア”だけや“イ”だけを切り取って、同じ一文字同士を10点ずつ並べて紹介しています。そうすると、単語として群をなすときと、一文字単体のときとで印象が随分と違う点を楽しむことができます。解説は少なめなので読むのが苦手な方にお薦め。
 そしてこのカタカナ編では看板の製作工程がコラムで紹介されていて、なんと日サ協会員である二社が登場します!そのほかにも数社のお名前が登場するのですが、そこはあえて申しません。是非、皆さん本をお買い求めいただいてからのお楽しみとさせてください。
 尚、余談ですが、本に紹介されているラーメン店の書体ですが、実は日サ協事務局の近所で営業しているお店の看板で、普段よく目にしていました。しかし本で気付くまでは「ラーメンタロー」だとずーっと思い込んでいました(笑)。
 おわりに、日本語はアルファベットと異なり、ひらがな、カタカナ、漢字など種類の多さから豊富なデザインが生み出される特殊な言語だと思います。その分、私たちの身近に存在する看板の表現力も豊かになる可能性を持っていることに改めて気付かされました。既製書体は確かに便利ですが、看板屋なら時に書体ごとデザインする気概とセンスを持ち続けたいものです。

藤本健太郎:1973年生
アートディレクター、デザイナー。1993年に「Nendo Graphixxx」を結成。
インディーズTシャツブランド展開などの活動も行う。

松村大輔:1973年生
ブックデザイナー。広告制作会社などを経て、出版社パイ インターナショナルに所属。
文字好きが昂じ、余暇を注ぎ込んで町の文字探しにでかけている。


Back

トップページへ



2018 Copyright (c) Japan Sign Association