ネオンストーリー

 
「山びとの記―木の国 果無山脈」
著者:宇江敏勝 発行:中公文庫


 …田舎者がたまたま都会に出たときは、祭りの昂奮に似たものを体験するわけである。そのときばかりは私も一張羅の背広など着て、地下足袋のかわりに皮靴をはいている。そして物珍しいもの、美味しいものを売っている店や、若い娘に眼を奪われながら人混みに揉まれて歩く。乞食がいたりするのも昔の村祭りと同じだと思う。
 書店、美術館、映画館などが私が時間を潰す主な場所である。百貨店の売場を見物してまわるのもおもしろい。あるいは飲食も欠かせぬ楽しみのうちだ。たとえば一杯のうどんを食う場合でも、豊富なメニューのなかから選択することによって、豪勢な食事をしているかのような気分になるわけである。まだ中学生だったころ、修学旅行ではじめて大阪に泊まって、ネオンサインに目を見張る思いをしたものだが、いまでも都会の夜の明るさには違和感を抱く。それに比べると、山の夜は文字通り暗闇なのである。

 
 

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