メッセージ
 CI変更工事と業界 犯される職域と商業倫理 
 関東甲信越支部 T.K

 バブル崩壊以来屋上広告塔を主体としたネオンサイン工事が年々減少をたどりつつあります。売上が目に見えて縮小してきた中、救世主のように現れたのが大型企業同士の合併によるCI変更工事でありました。ことに都市銀行間の統合合併は90年の三井とさくらの合併を皮切りに三菱と東京(96年)、富士、第一勧銀、日本興業による「みずほ」(00年)等々数年間隔で繰り返され、業界にとってはネオンサイン工事に替わる重要な受注の柱となってきました。そんな中、今回の「三菱東京UFJ」銀行の誕生は過去最大規模の大型合併工事であり、工事業界の期待も大なものがありました。
 これらの大型合併CI工事には従来われわれが携わってきたサイン工事とはかなり性格の違うものが感じられます。
 例えば、オープンの期日に合わせてかなりの店舗数の工事を同時に終えるわけですから、それ相応の機動力が必要で、元請となる請負業者は高度なマネジメント能力を要求されます。また、施工に至るまでに現場調査、図面作成などかなり長期にわたる事前作業があり、ある程度の経験を積んだ余裕を持ったスタッフ数と機器設備を備える必要があります。主だった業界企業はそのような要望に応えられるよう企業体制を整備し、作業を連携して遂行できるネットワークつくりに努力してきました。
 しかし、この種の大型CI工事にはいくつかの問題点がひそんでいるように思います。それは考え方によっては技術集団としての業界の存立にかかわるものであり、社会一般の商取引ルールに照らしてもどんなものかと思われます。そのひとつは施主とわれわれ施工業者の間がどんどん離れ、顔の見えない仕事になってきている事実です。
 本来、サイン業においては施主と施工者の距離は短く、施主の要望をストレートに聞きながら仕事を進めてきたものでした。それは大企業の場合でも同様で、例えば、松下幸之助など業者を呼んでざっくばらんに広告塔の構想を伝えた時期があったと聞きます。以前は広告塔が企業のシンボルであり、企業主が強い関心を抱いていました。企業が組織で動く傾向が強くなってからは、そのようなことも少なくなり、更に大企業の仕事においては広告代理店を経由する場合が多くなりました。
 大型CI工事に関しては当然そのようなマネジメント能力を備える大手広告代理店が入ることになりますが、最近は1社に限らず、二次、三次と数社の代理店を経由するケースが増えてきました。しかも、施主である銀行の要望により、代理店のほかに本来の業務とはなんら関係の無い企業が入り込む例がよく見られます。例えば、今回の場合、シートメーカーの名前も数社あります。しかし、シートメーカーはシートを売るのが本業であって現場作業のノウハウは持っていません。更に、われわれ施工業者と同列に商社、倉庫業者、印刷業者等のまったくの異業種業者がぞろぞろ入り込んできています。そんな会社が何もせず、マージンを抜くだけでわれわれに仕事を依頼してきているのが現実です。建設業においては丸投げ工事は法で禁じられていますが、われわれも建設業許可をとって仕事をしている事業者であり、そのようなことが認められてよいものなのか、疑問に思わざるを得ません。われわれの商域がいつの間にか異業種に侵食され、その垣根が見えなくなってきています。発注者は長年培ってきたわれわれの専門業者としてのノウハウをまったく評価していないかに見えます。肝心の利益は仲介業者に吸い上げられ、われわれは少ない予算でリスクの多い仕事をせざるを得ないのが現実です。
 更に、そのような業者が介在することによって円滑な仕事の流れが阻害される傾向があります。仕事の全体像が見えず、仕事に付随する情報交換の接点が失われた結果、無駄な作業や無理な工程を強いられます。そんな仕事に携わる社員の士気は落ち、仕事の達成感も技術者としてのプライドも低下することになります。このような仕事ばかりしていると優秀な人材は業界から離れていくばかりではないでしょうか。
 もっとも問題提起したいことは、価格の取り決めがなされないまま期限に追われて工事が先行し、価格の交渉が始まるのは施工がほぼ完了した段階になる点です。あらかじめ見積もりは提出するものの、結局予算が無いからと採算を度外視した価格で押し切られる場合がほとんどです。業界が冷え込んでいる中、仕事を受注できるだけ良しとしても、1年近くに亘って土日も夏休みも返上して作業に専念した結果が、満足な賞与も出せないというのは異常というしかありません。人工仕事となる末端業者に対する支払いも延ばさざるを得ません。以前、大量のCI物件を受注したものの終わってみたら大赤字で倒産した会社もあったということです。契約書に至っては、仕事が終わるころになって契約日をさかのぼって取り交わすことになります。それは単に体裁だけの形式的なものに過ぎません。
 以前、通産省のしかるべき窓口に相談に行ったところ、こんなことは明らかに商法違反であり、そんな業界は聞いたことが無いと言われました。弁護士に聞いても契約書も交わさず仕事をするとは社会通念上考えられないとあきれていました。法令順守が社会的コンセンサスとなりつつ現在、一流銀行や大手代理店の時代に逆行するやり方には疑念を感じざるを得ません。
そんな隷属的かつ屈辱的扱われ方に、怒りとむなしさを感じるのは私だけでしょうか。このような悪しき現状を何らかの形で正す努力を払わない限り、業界はますます弱体化し、業界の将来は暗いように思考します。プライドを失い、仕事をもらえるだけましではないかと甘んじていることは、とりもなおさずわれわれの存在を否定することになるのではないかと危惧します。

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