World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.176  聖ヤコブとホタテ貝
聖ヤコブとホタテ貝
 フランス中西部、ドルドーニュ川近くの牧草地と森が交互に現れる田舎道を車で走っていると、突如現れた小さな赤い村、コロンジュ=ラ=ルージュ(Collonges-la-Rouge)。「フランスの最も美しい村」に名を連ねるこの小さな村は、村全体が酸化鉄を多く含む赤い砂岩で建てられており、独特の美しい風景を作っている。
 この中世絵画のような村は、キリスト教三大巡礼地の一つであるサンティアゴ=デ=コンポステーラへの巡礼路としても古い歴史を持つ。サンティアゴ=デ=コンポステーラの聖堂にはイエスの十二使徒の一人、聖ヤコブの遺骸が祀られており、その聖ヤコブのシンボルがホタテ貝なのである。この建物に描かれたホタテ貝はまさに巡礼路にあるホテルの看板である。
 なぜホタテ貝が聖ヤコブのシンボルであるかは諸説あるようだが、聖ヤコブの亡骸を運んだ船の底にホタテ貝がたくさん付着していたとか、聖ヤコブが布教中に、ホタテ貝を杖にぶらさげて水をすくって飲んだとか…。ちなみにフランス語とドイツ語でホタテ貝は「聖ヤコブの貝」(Coquille Saint-Jacques / Jakobsmuschel)という名前である。キリスト教徒にとって聖ヤコブとホタテ貝というのは意識下ですでに繋がっているわけである。
 しかし、なんとシンプルで分かりやすいサインであろうか。ホタテ貝が壁に描かれていれば文字が読めなくともサンティアゴ=デ=コンポステーラへの巡礼路を連想するわけである。
田嶋佳子





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