World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.178  街にイノベーションが宿るとき
街にイノベーションが宿るとき
 サグラダ・ファミリア教会やカサ・ミラ…ガウディの有機的な建築をみた後にバルセロナ・パビリオンを訪れるとその大胆な直線の建築がとても斬新にうつる。1929年バルセロナ万博のドイツ館として建設されたこのパビリオンはモダニズム建築三大巨匠の一人、ミース・ファン・デア・ローエによって設計された。
 ワイマール共和国政府からの公式依頼であったこのパビリオンは、第一次世界大戦後11年が経ち、落ち着きを取り戻したドイツ国を印象づけることと、最新技術の発表に主眼が置かれた。そのコンセプトは展示物で紹介されるのではなく、建築全体で表現されていた。当時ミースはドイツを代表する新世代の独創的な建築家として台頭していた。そして、ドイツにおける20世紀の文化輸出を代表する、バウハウスの3代目校長としても有名である。バウハウスがもたらしたもののひとつは社会に対する革新性である。造形教育にとどまらず生活様式や働き方、社会のありかたにまで影響を与えた彼らの斬新なアイデアや造形精神は今でも私たちに感動を与えている。まさにそれが体現され、モダニズム建築の傑作として1986年に再建されたのが、このバルセロナ・パビリオンなのである。
 街に革新的なアイデアをもたらすためには市民の勇気と寛容が必要だ。ガウディ然り、ミース然り、バルセロナにはオープンな雰囲気が漂うが、革新性は街に魅力を与え、特別な観光資源となり、シビックプライドの醸成に繋がるということを改めて実感することができた。
田嶋佳子





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