World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.184  ムーリッシュ様式のサイン
注ムーリッシュ様式のサイン
 デンマークの首都コペンハーゲンにある「チボリ公園」をご存知の人も多いだろう、1843年に建設された世界で3番目に古い遊園地である。広さは東京ドームの1・7倍程度なので遊園地としてそれほど大きいわけではないが「公園」という名前のとおり緑がきれいに整備され、花壇がいたるところにあり、ベンチも多いので憩いの場という雰囲気がある。軽食スタンドから高級レストランまで様々な飲食店があり、私が訪れた時には中央にある舞台で民族舞踊の発表会が開かれていたりと、入場料を払えば一日中ジェットコースターや観覧車などのアトラクションに乗らなくてもゆっくりと楽しめる場所なのである。特筆すべき点は建設時19世紀中頃のノスタルジックな世界観が今なお色濃く残り、本物の「夢の国」という趣があるところだろう。
 さて写真であるが、このチボリ公園にある白い五つ星ホテル「Nimb Hotel(ニム ホテル)」とその前に立つサインである。ホテルはムーリッシュ様式の建築である。ムーリッシュ(Moorish)とは「ムーア人の」という意味で、中世にモロッコ、チュニジアなどアフリカ北西部、イベリア半島で暮らしていたイスラム教徒を指す。ニムホテルと同じスタイルで、視認性や可読性など機能的な要素よりも佇まいに注力が置かれているこのサインは、可愛らしくてむしろ目を引く存在感があった。ニムホテルに入っているレストランやカフェの誘導サインだが、右は日本発祥のパン屋「アンデルセン」の広告も兼ねており、親しみを感じずにはいられないサインであった。
田嶋佳子





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