VOL.28 神が贈った神秘の国のサイン文字

 バンコックヘの到着便から降りる際、スチュワーデスから両手を合せて拝むようにおじぎをされ、なんだか似非聖人にでもなったようなこそばゆさを感じた。こんなに奥ゆかしい挨拶が街中でも交されているのを見て、タイ人の敬虔な国民性を実感した。
 仏教が生活の隅々まで入り込んだ信仰心の厚さと歴代の皇帝によせる敬愛の念の深さ。この国は未だ文明社会の尺度では計りえない価値観が支配する神秘の国なのだ。
 そんな国の空港で早々にお目にかかったサイン文字は、あたかも神がタイ国民に特別にプレゼントしたかのように美しく、心に響くものがあった。それは一見アラビア文字やサンスクリット文字にも似ているが、私にはむしろ象形的な文様のように感じられた。
 例えばアールヌーボー風にデザインされた野の草花のような、蔓草の中から花や蕾が顔を出し、蝶や蜜蜂がその上を舞う。中にはつりがね草そっくりの姿さえ見えるようではないか。ここちよいリズム感とおとぎ話の国から抜け出たように可憐な形体に心をうばわれ、私は屋外サインといわず、案内標示や道路標識など、文字さえ見ればカメラのシャッターを切りたい衝動にかられ、それを押えるのに苦労した。
 





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