World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.76  ミーソン遺跡のチャンパ文字
ミーソン遺跡のチャンパ文字

 「国敗れて山河あり」と杜甫は詠んだ。確かに国は滅びても美しい自然は残る。しかし、ベトナムの旅で私が痛切に感じたことは「国勝利して文化破壊の爪痕残れり」ということだ。
 この国の古都フエの壮麗な王宮はその大部分がベトナム戦争によって失われ、見ることは出来なかった。7世紀から17世紀まで栄えたチャンパ王国が築き、ミーソンに点在する神殿群もその殆どがアメリカ軍の容赦ない攻撃の結果、無残な姿を晒していた。レンガによる複雑な造形が見事なこの遺跡はもう修復によってかつての姿を再現することも出来ない。不思議なことにレンガとレンガを繋ぐモルタル層が見られず、どのように接着したのか、現代科学でも解明されていない。そればかりか、いまも当時のままに明るい色彩を保ち続け、カビも苔も付かないレンガを造ることさえも現代の技術では不可能という。
 アメリカが仕掛けた戦争がどんな意味を持ったのか、今となれば破壊の傷跡だけが残り、その無謀な行為を実証している。
 石碑に刻まれた清楚なチャンパ文字がこの民族の高度な技術を象徴し、アメリカが加えた蛮行を批判しているように思えた。そしていま再び、かの国は独善的な戦争を仕掛けてしまった。

 





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