特別寄稿

 私の「東京タワー」物語 
(株)東京システック 小野博之

 

 二年に一度のネオンアート展は当社にとって会社を挙げての取り組みの場でもある。先ずテーマの決定だが、全社員から案を募る。出てきた案を厳選審査し最良の作品に仕上げることになる。
 勿論私もその一員として毎回案を練る。
 考えたのはエッフェル塔の建設を何段階かに分けて作品にすれば面白いのではなかろうかという案である。工事中のエッフェル塔の写真を見たことがあるが、鉄骨組みの柱が四方から伸びてきて一本になるところなどなかなかの壮観である。ミラーを使って半分だけ作れば演出効果も期待できる。
 そんな矢先、当社社長の須藤君と飲んだが、そのとき彼は東京タワーが面白いのではないかと言いだした。東京タワーとエッフェル塔、偶然にも考えるところが似ている。比較してエッフェル塔の場合、骨組みが細かく難しそうだが、その点東京タワーは架構が簡潔。それにわれわれが身近に接しているから親しみもある。
 ということでテーマを東京タワーにすることに何となく方向性が定まった。でも、もう少し作品化する上での肉付けがほしい。そこで思いついたのが映画「三丁目の夕日」である。折りしも、つい最近続編の「ALWAYS 三丁目の夕日」がヒットしたばかりである。私にとっても第一作は印象深かった。日本が高度成長を迎える以前の、貧しい中にも人情味深い社会背景が的確に描かれていた。その場面の中で東京タワーの勇姿が日に日に立ち上がっていくのが印象的だった。当時の時代の象徴として人々に希望を与えたシンボルでもあったのだ。
 東京タワーが出来上がったのはちょうど50年前、昭和33年だから今年はその記念の年でもあるのだ。そんなことを織り込めば作品も面白くなることだろう。
 社内の作品選考会では会長と社長が出したからというえこひいき無しで「三丁目の夕日」をテーマとすることが決定した。作品製作の上ではあまり細かく造りすぎても単なる模型と見られてしまうから、どこまで表現するかがポイントとなった。骨組みが建ち上がるところを3段階で表現し、その後真っ赤な夕日で染め上げられ、夜になって星が瞬く一日をストーリーとして描いたが、結果的にその物語性を表現できたことが嬉しい。それは企画スタッフや製作スタッフの全面的な努力の賜物でもある。
 作品は来場者の評価も高く、最高点を獲得することが出来た。考えてみれば今年は当社の法人化50周年でもある。当社は昭和30年に前会長である私の父が創業したが、それから3年後の昭和33年に法人化した。そんな意味では当社と東京タワーは図らずも誕生が一緒なのだ。
 そんな因縁からこの作品を是非東京タワーに飾ってもらいものと考えた。そして大勢の来館者に見てもらえたら低落気味のネオンの宣伝にも一役かえるのではなかろうか。
 東京タワーのスタッフとコンタクトをとる中で分ってきたことは、タワー側としても今年迎えた50周年にあたり何らかのイベントを考えていた。新タワー「スカイツリー」の着工が目前の折でもあり、一層の集客対策を迫られていた。館内のリニューアルの中で当社の作品は格好の展示物になりそうなのだ。いろいろ段階を経た上で展示が決定した。
 但し、展示にあたっては作品名の「三丁目の夕日」は取ってほしいと言われた。この映画には背景に東京タワーが写っていても会社としての東京タワーとは何ら関係はない。題名の版権問題も絡むのだろう。東京タワーの所在地を地図で調べたら芝公園4丁目にあたる。それでは「4丁目の夕日」にしたらどんなものかとも考えた。でも、それもわざとらしい。作品の上部を飾っていた作品名のネオン文字は残念ながら外すことにした。
 東京タワーは昭和33年の12月23日にオープンしている。私は翌年の3月、高校を卒業する間際の休み期間中に中学校同窓の友人2人と一緒にこの塔に登った。3年前同じ中学校に机を並べた仲だったが、それぞれに違う高校に進学し、以来あまり会う機会もなかった。しばらくぶりの再会で大学に進学が決まった者、就職する者とそれぞれに進路は違うものの、これからの将来に向けて期待の大きい3人であった。私は数日後の三井金属鉱業への就職が決まっていた。
 数日前東京にしては珍しい春の雪に見舞われ、展望台から見るビルや民家の屋根にはまだ溶けない雪が残り、陽光にキラキラ輝いていた。遠くには奥多摩の連山が白く連なり、東京で最高の高さから見はるかす景色は素晴らしかった。東京タワーの完成は私の社会人としてのスタートとも重なった。それからの50年、東京タワーも年を経たものだが、私も人生の経験を積んで歩んできた。ともに50年、実に感慨深いものがある。
 8月4日、リニューアルとなった東京タワーでオープニングセレモニーが行われた。塔の高さにちなんでタワーギャラリー3・3・3と名づけられた新設の展示室の前面廊下に作品は晴れがましく展示されていた。製作者の思いをよそに、作品の前で陽気にポーズを作って記念撮影に興ずる若人達に苦労が報いられたような気がした。

夕日に輝く塔 東京タワーに展示された作品と筆者

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