この本は画家 野又穫の作品集である。前世紀の遺構のような、あるいは産業革命華やかなりし時代の仮構のような建築物が描かれている。どこかに実在しているかのようでいてその実ありえない、遠い夢の中で出会ったようではっきりとは思い出せない、そんな不思議な建物がページを開くたびに現れて奇妙な感覚にとらわれる。
これはすべて画家の想像の産物なのだ。現代の建築技術は目覚しく、「こんなのあり?」と思うような奇抜な造形の建築物がどんどんと出現している。
でも、それらの建物には詩や叙情が欠けている。人間味が失われている。野又の架空の建物にはポエティックなリアリティがたっぷりと含まれていて思わず異次元の世界に引き込まれる。
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