わたしの渡世日記(上) |
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近代的な銀座にくらべると、吉原はガラリと変わっていて、ある地域だけが別世界を営んでいるように見え、空気までも違った匂いがした。 道の両側には二階、三階建ての「妓楼」(ぎろう)が並び、妓楼の前には、青く細いネオンサインで縁どられた一メートルほどの、娼妓(しょうぎ)たちの全身像の写真が何十枚も並んでいた。威勢のいい男衆の声に迎えられ、黒えり姿の仲居に導かれて大広間に入る。日本髪に美しい裾をひいた女たちが続々と現れ、座敷はたちまちにして華やぐ。酒が運ばれ、御馳走が並び、三味線やタイコが鳴り出す。私がいつも感心して見とれるのは、豆しぼりの手ぬぐいや扇子を小道具に、洗練された手踊りを見せる「幇間」(ほうかん)たちであった。 |