サインストーリー

 

「在日」

  姜 尚中 集英社


 そうした時代の激動の飛沫を浴びながら、わたしは確実に、もはや煩悶青年の時代に帰ることはないと感じつつあった。その感じが膨らんでいけばいくほど、潮が引くように政治から遠ざかっていく社会から取り残されていくようだった。
 数寄屋橋に張ったハンガーストライキのテントの中から外を眺めると、東京の夜は、人混みでごった返していた。不夜城のようにネオンサインが煌めき、男女が歓談しながらそぞろ「銀ブラ」を楽しんでいるようだった。
 「東京はいいなぁ。日本は平和だ。それに反してソウルはどうだろう。どうして韓国はこんなふうになれないのだろう」
 半ばぼやきともつかない煩悶のようなものが、わたしだけでなく、仲間たちの心を占拠していたに違いない。



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