「夕映え天使」(切符) |
物干しから眺める夕まぐれの景色が好きだった。 恵比寿の町を縁取るように、小高い丘がっている。西は渋谷の高台から続く代官山の森で、電車通りを隔てたあたりは防衛庁の広い敷地だった。そこは少し前まで進駐軍が接収しており、兵隊の姿はもうなかったが、町なかの中古家具屋やネオン管のまたたく酒場の窓などには、まだ彼らの残り香が感じられた。 山手線の高架を挟んだ東側はビール工場の丘で、五時のサイレンがすると百をえる間に、四本の煙突から昇り続けていた煙がのように止まった。 この景色にべれば、が生まれ育ったの町は味気なかった。お屋敷町は日がなしんと静まり返っており、生活のいがなかった。だから広志は、祖父に引き取られて恵比寿の町に暮らし始めたとき、それまでは意にとめなかった幸福を感じた。いや、正しくは幸せだと思うことにした。 |