点滅希

 
 「東京のクルーズ船」  
    

 東京に長く住んでいながら日本橋川と神田川のクルージング船があるとは知らなかった。新聞広告で分かったので早速申し込んだ。
 当日は35度の猛暑にもかかわらず船は満席。にわか雨に備えてゴルフ用の雨具まで用意した。
 船は日本橋の袂から出発する。日本橋川の上は全面高速道路が架かっているし、両岸のビルは川に背中を向けて立っているから、縁の下から隣の家の裏側を覗くような趣でセーヌ河のクルージングとは大違い。でも、普段はスポット的に橋の上を渡るだけだから知っている橋が次から次とつながって現れる情景は意外だった。川の護岸は石垣が積まれ、江戸時代そのままに築いた各藩の印が刻まれているのが興味深かった。
  続いて乗り入れた神田川は高速道路がないだけに風景が開けて気持ちがいい。両岸には植栽もされ手入れが行き届いている。私は昔、水道橋の袂にある高校に通っていたが、その頃の川はメタンガスの泡がプカプカ浮かび、異臭がただよっていたものだ。通るのはし尿を運ぶ“おわい船”ばかり。あの頃からみれば東京の川もずいぶんときれいになったものだ。われわれの船が通ると橋の欄干にたたずむ人たちが手を振ってくれ、こんな情景も心をなごませた。

(愚庵)

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