九階から見た、ゴージャスな光の絵巻物とちがって、地上で、しかも、方向感覚のまるでない笙子の運転する車から見えるネオンは、そぼろ泣くように貧弱で、茫然としたままの笙子は、気がつくと同じところをぐるぐる回っていた。ちまちまとした店が並び、商店街に入り込んでしまったらしい。どっちに出ても見覚えのある大通りには出なかった。
なんとはなくまだ人情味のある下町商店街の風情と、超近代的な砂丘子のマンションのあるビルが、あまりにも対照的で、「これが今の東京か」と独りごとを言いながら、どっちへ走ったらいいのか、情けなくなった。袋小路の囚われ人の気分で、買っただけで使ったこともないカーナビを叩いて八つ当たりをしたら、小さなスクリーンにぱっと地図が出た。
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