「いつか見たネオンサイン C」 |
「この店は戦争の前と変わっていないらしい」スティーブがビールの壜に口をつけながら云った。 「ココナッツ・グローブという名前がいいよ」ぼくは云った。 ステージでヨナミネがウクレレを弾き唄っている。ぼくはヨナミネに手を振った。ネオン・サインのビールの文字が瞬いた。 唄はビギンからフラソングに変わった。ウェイトレスが踊るようにして客席の間を縫っていくのが見えた。天井の扇風機がゆっくり回っている。ここではすべてが音楽的リズムのなかにあるようだった。 「ここは天国の入口だね」 スティーブがビールの壜に口をつけながら微笑んだ。 |