表紙によせて─11

 

「いつか見たネオンサイン C」

  浅井愼平


「この店は戦争の前と変わっていないらしい」スティーブがビールの壜に口をつけながら云った。
「ココナッツ・グローブという名前がいいよ」ぼくは云った。
 ステージでヨナミネがウクレレを弾き唄っている。ぼくはヨナミネに手を振った。ネオン・サインのビールの文字が瞬いた。
 唄はビギンからフラソングに変わった。ウェイトレスが踊るようにして客席の間を縫っていくのが見えた。天井の扇風機がゆっくり回っている。ここではすべてが音楽的リズムのなかにあるようだった。
「ここは天国の入口だね」
 スティーブがビールの壜に口をつけながら微笑んだ。


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