DVD録画コレクションのその後 |
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NEOS編集顧問・全ネ協相談役 小野博之 | |||
私は5年前、このNEOS誌上に「DVD録画コレクション増殖中」と題するエッセーを書いた。あれから5年、当時2000枚だったコレクションは現在4000枚をオーバーした。1年間に400枚のペースだ。そこで問題が出てきた。収納スペースとして確保しておいた棚がそろそろ満杯に近づいて来たのだ。DVD盤そのものは安いから、いくらでも買い足せばいいものの、それを収納するスペースがなくなったらアウトだ。棚を買い足せばいいようなものだが、その棚を置く場所がない。コレクションもこの辺でおしまいにするか、さもなければあまり重要でない盤を捨てて新しいものを増やしていくか、悩んでいた矢先、いいことを思いついた。 最近、量販店で目にすることが多くなったのはDVD収納帳だ。ソフトな布袋が綴じ込んであり、そのポケットに盤を収納する。以前はバカにしていたが、考えて見ればプラスチックの収納ケースがいらないから、ケースの厚み分を減らせる。計算してみると収納スペースは約3分の1近くに縮小できるのだ。仮に半分としても収納能力は倍増することになる。しかもブック式だから、分類が可能だ。映画なら監督別とかジャンル別とか考えられる。 私が選んだのはDVD盤が2段に入り計48枚収納可能のものだ。これで厚さは5センチほど。まず入れたのは山田洋二監督の寅さんシリーズだ。これは特別編1本を除いてちょうど48本だからぴったり納まる。黒澤明監督のものはほとんど持っているが、全部で29本あるから、これと山田洋二の寅さん以外の作品19本と合わせて48本で1冊分。 私は宮崎駿のテレビアニメもずいぶん録画してきた。「赤毛のアン」「母をたずねて三千里」「トム・ソーヤの冒険」「フランダースの犬」の4作もまとめて1冊に納まる。こんな調子でまとめていくと棚がずいぶんとすっきりしてきた。 「そんなに集めて見直すことはあるの」と聞かれることがある。実は私もそう思う。でも収集は私の趣味であり、どうしても一度観た感激の映画を手元に残しておきたいのだ。これは収集家の性なのだろう。 この5年間の間で是非録画しておきたいと思っていた作品もずいぶんと揃った。そのうちの2本がヴェルナー・ヘルツォークの「アギーレ・神の怒り」と「フィツカラルド」だった。私が待ちこがれていたものだ。その思いは前回のエッセーにも書いた。それが、最近なんとWOWOWでヘルツォーク特集をやったのだ。私はダビングしたその2本をやはり映画ファンである友人に貸した。ところが、数カ月して返してほしいといったところ、「私は借りていませんよ」と言うではないか。手元にはもうないし、貸す相手は彼以外には考えられない。まさか証文まではとっていないし、これにはまいった。たかがDVDといえども他人に貸すのは要注意と思い知った。 最近、思いがけない作品の上映があった。「スキャンダル」いう題名のイタリア映画だ。「スキャンダル」というタイトルの映画はほかにも2本あり、この作品はサルバトーレ・サンパロという監督が1976年に撮った40年も前の作品だが、私には強い印象がある。第2次大戦下のフランス。薬局の店主でもある美しく高貴な人妻が使用人のドンファンに言い寄られ、次第に堕ちていく。最後にはいたいけな幼い娘まで差し出して繋ぎ止めようとする。そのリアリティ描写にゾクゾクとさせられる。もうかなり前、まだビデオテープの時代に一度だけテレビ上映をしたが、その後やったことがない。私にとって待ちに待った一本だった。 テレビでは古い映画も上映されるが人気のあったものに限られ、マイナーなものはめったに上映されない。私がいま、最も上映を待ち焦がれているのは「尼僧ヨアンナ」(1962年 イエージ・カヴァレロウイッチ監督)だ。この映画はDVDの販売もとっくの昔に在庫切れになっている。是非もう一度観てみたいものだ。 最近は映画が面白くなくなった。新しい作品がどんどん上映されるが、その数が多すぎて印象に残らない。アクションものはコンピュータグラフィックが多いから、もうどんなシーンにも驚かなくなった。だから最近はテレビからの録画も減ってきている。私にとって昔の映画は娯楽と言うよりはアート鑑賞と言う意味合いが強かった。考えてみれば巨匠といわれる監督の作品はもうほとんど収録が終わっている。 私が最近特に力を入れて収録しているのはアート番組だ。画質が良くなったせいもあるが私が最も関心がある番組だ。常時録画しているのはEテレの「日曜美術館」、BS朝日の「美の巨人たち」、NHK1の「美の壺」などだ。これらは毎回録画にセットしてあるから見逃すことはない。また最近関心を寄せている番組に人物伝がある。「昭和偉人伝」「ザ・プロファイラー」「英雄たちの選択」「黒柳徹子のコドモノクニ」などこれもシリーズ番組が多い。あとは歴史ものと科学ものも興味深い。これ等は録画を見ないでDVDにダビングしてしまうと最後まで見ないで終わることが多い。だから必ず見終わったものをダビングするようにしている。その点私が最近買い換えたデッキは録画時間がBSで270時間、地デジで382時間もあるから頼もしい。 そんなこんなで休みの日はテレビにかじりついていることが多くなった。最近本が読めなくなったことを痛感しているが、元凶はテレビだったのだ。まだ録画しただけで見ていない番組もどんどんたまってきている。何とかしなければ大変なことになりそうだ。 (補足) この原稿を読んだ知人が、「欲しがっているDVDはAmazonで売っていますよ」と耳寄りな情報をくれた。私はネットの操作は音痴でAmazonなるものも利用したことがなかった。ところが、アクセスの仕方と購入の方法を指導してもらったら、あるわあるわ。私が観たいDVDの大半は売られているのだ。発売元は品切れや絶版でも、それらをストックして商っている業者がいろいろあるのだ。Amazonはそれらの業者の仲介をやっているのだ。新品も中古もある。価格は1万円近いものもあるが、大半は3千円前後で購入可能なのだ。現在は名画座で古い名画を観ても1本千円はする。往復の交通費や電車賃を入れたら2千円近くはかかるから3千円は高くはない。観たかった「尼僧ヨアンナ」は早速買ったが、このほかに「ストーカー」(アンドレイ・タルコフスキー 1980年)や「去年マリエンバートで」(アラン・レネ 1964年)、邦画では「はなれ瞽女おりん」(篠田正弘 1977年)や「無常」(実相寺昭雄1970年)などたちまち10本近くになった。中にはちょっと印象に残ったシーンがあって、是非観直してみたい映画も入っている。 そんな映画の一つがアメリカ映画「白い家の少女」(ニコラス・ジェネスネール 1977年)だった。ジョディ・フォスターの少女時代の主演作である。サイコ・サスペンス映画で記憶はおぼろげだったが、観直して鮮明になった。まだ13歳というジョディ・フォスターがこまっしゃくれた早熟の少女を演じているが、さすが当時天才子役といわれただけのことはある。ただし、名美人女優となった現在とはちょっと結びつかない気もする。ほぼ40年というタイムラグがあるから無理もないが、そこが古い映画の面白いところだろう。ここ数週間、昔にタイムスリップしたかのような感覚を味わいながら映画鑑賞に浸っていた。 |