サインとデザインのムダ話

 
手作りポストがバロメーター

武山良三
富山大学芸術文化学部教授
日本サイン学会 会長
公益社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
サインデザイン専門誌 signs編集長事
武山良三さん

 初給料で一眼レフカメラを購入してから30数年間撮影を続けている。アナログ時代にすでに数万枚のスライドがあったが、デジカメに移行してからはほぼ毎日のように撮影している。写真は日付と場所をキーワードに書類箱をつくって管理しており、年間の管理箱数はここ数年四百数十件になっている。
 写真の大半は看板、そして町並みの写真だ。近場でも海外でも、街を歩く時は必ずカメラを携えている。街を歩くことと撮影をすることとは、私にとってはほとんど同じ行動になっている。元々は仕事の参考にと始めたことであるが、素晴らしい看板に出会えると旅は充実、それが上手く撮影できると喜びも倍増ということで、今では趣味としても楽しんでいるという状態である。
 行く先々で魅力的な看板を求めて歩いていると、街の地図を見て、現場を少し歩いただけで、だいたいどの辺りにお店が集まっていて、しかもフォトジェニックな看板があるかどうかが掴めるようになってきた。「この路地を抜けた辺りが期待できそう」と当たりを付けて、実際に優れた看板が見えた瞬間は思わず「ビンゴー!!」と叫んでシャッターを押しまくるのである。そのような収穫があると、疲れも忘れて2時間でも3時間でも歩き続けられるのだ。
 街歩きの蓄積は、街を見る目を鍛えてくれるようだ。データ分析というにはおこがましいが、自分の目で実際に見て得た情報には、街の実態が現れているように思う。それが写真として記録されることで、感覚的な印象を、根拠ある情報として定着させることができるようになった。
 例えば、民家のポスト。看板ほど目立たないもののポストも町並みをつくる上でスパイスのような存在だ。既製品が数多く販売されており、街中でもそれらが大半を占めるが、建物や町並みに合わせた手作りポストに出会える時がある。
 信州の白馬ではロッジ風、木曽の奈良井宿では昔懐かしい石置き屋根を模したポストがあった。函館の元町では洋館風のポストにも出会った。ポストには郵便や新聞が入れられるが、それは民家にとって触覚のような存在だ。そのようなポストに気を配ってデザインしていることは、住民が地域とより良くつながりたいという意思を表明しているように感じられる。私にとってそれはまちづくりに対する意識を判断するバロメーターのひとつになっている。



  デザインの良し悪しや、意識の持ちようなどをデータで示すことは難しいが、大量に撮影した写真を俯瞰すると傾向のようなものが浮かび上がってくることがある。なんとか実学に結びつけることができればと、今日も飽きることなく写真を撮り続けている。


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