「いつか見たネオンサインH」
浅井愼平
露地を曲がるとき、ぼくは振り返った。誰かが呼んだように感じたからだ。けれど露地には人影は見えず、バー・ウィスキー・キャットの店の電気が消えた。
時計を見るとぴったりと11時だった。ぼくは感心して呟いた。表通りにも人影はなく、小さな住宅が並んで、その上に月が登ってくるところだった。
もう一度、露地を振り返るとネオンサインだけが輝いて見えた。
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