そこには太古から続いているのであろう、血のしがらみのやるせなさがひそんでいるにちがいない。
私はいつの間にか忍び込んで悪業のかぎりをつくしたにちがいない、彼女たちの尿にむせながら、ベッドルームのガラス窓を開け放つ。降りしきる細雪のはるか向こうに、ベイ・ブリッジの貧相なネオンがかすみ、町の灯が猫たちと同じように鋭い痛さで私をみつめている。
私はその夜目覚めたまま悪夢をみた。悪夢の中で三匹の猫は饒舌である。その猫たちの会話を不眠の私が私じしんに懇切丁寧に翻訳している。その翻訳の中で猫たちの言うあいつとは私のことであり、あの人は我が母なのである。
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中略 ・・・・・・・・・・
手袋をはめずに、うっかり車のドアにさわりでもしたらそのまま、凍傷で焼けついてしまいそうな、斬れるように凍えたニューヨークの夜八時、ブロードウェイはネオンサインにきらめき、劇場正面に横づけにされたリムジンを降りて、私のヴェニス製のきゃしゃなブーツのヒールが、まずストーンと氷雪の上を滑った。
開幕を、あまりの興奮の末、嵐の前の静けさのようなしじまで迎えた私の前に、ローレン・バコールは斜め右を向いて舞台の下手に立っていた。少し肉のつき過ぎた腰の回り、女狐のようにしなやかだった昔日の面影を残して、その立ち姿はうつくしく、艶を失ったハスキーな声が、私の胸をしめつけ、歳月という容赦のない掟が彼女の上を吹き過ぎたさまを息を呑んでみつめていた。
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