ネオンストーリー

 
春に散る ─埠頭─ 38
沢木耕太郎 著


 だが、誰ひとり世界チャンピオンになれなかったということの中には、その見方の限界というものがあったのかもしれないとも思える。真田の言う「頭脳の明晰さ」は果たしてボクサーにとってどうしても必要なものだったのだろうか……。

 ……星の部屋を出た広岡は、大岡川沿いの道から大きな通りを渡り、いつの間にかネオンのきらめきはじめた店の並ぶ舗道を歩いていた。
 アルバイト先の荷役会社の社長が、若い広岡たちを連れていってくれた酒場はこの近辺にあったような気がする。なんとなく眼で捜しはじめて、もうそんな店が残っているはずもないと自分を嗤いたくなった。

 
 

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