オランダ・デンマークを巡るサイン視察ツアー | ||||||||||
関東甲信越北陸支部 (株)東京システック 小野利器 | ||||||||||
昨年の秋に日本サインデザイン協会(SDA)の海外ツアーに参加しました。日本サイン協会(JSA)の企画ではないツアーの話ですがご容赦ください。視察先はアムステルダムを主としたオランダと、コペンハーゲンを主としたデンマークの二か国で、どちらも私にとっては初めての地でした。 街並みとサイン ヨーロッパの建築文化は石やレンガ造りの重厚なイメージがあり、実際に行ってみると正にその通りです。よく見ると建物一つ一つは形も表層も違うのに、様式や質感に統一感があるため全体としてのまとまりを感じ、とても美しい街並みという印象を受けました。特に窓の使い方が特徴的で、狭い間口に対して窓枠のデザインが街並みの印象をグッと明るいものにしています。アムステルダムは街中に運河が走っていて、船上から眺める街並みも素敵なものがあります。びっくりしたことは多くの建物がひどく歪んでいる点でした。最初見たときは眉をひそめるほど衝撃的でしたが、見慣れてくると思わず笑いが込み上げてくるほどの歪み具合です。海と運河の影響で引きおこされる地盤沈下が原因だそうですが、日本ではありえない建築事情には驚きです。ヨーロッパの建物表層にはサインを表示する余白があまりなく、小さな品のある突出しサインがとても印象的でした。
広告と誘導サイン 広告について二か国共通していたのは、商業広告が極端に少ないという点でした。ヨーロッパ諸国は比較的広告が少ないか、エリア分けが徹底しているというイメージを持っていましたが、広告自体が極端に少ないのは意外でした。鉄道車両はラッピング広告がされていても、車内には広告がほぼ無く、駅や空港周りも最小限に留められています。これが規制によるものなのか、国民性によるものなのか分かりませんが、とにかく屋外広告ビジネスが存在し得るのか不思議に思えます。そのお陰というのも変ですが、誘導サインが広告に埋もれることなく、見やすくしっかりと機能しているように感じます。特にオランダを代表するデザイナーのポール・マイクセナーやデンマークを代表するポー・リンネマンによるの空港や鉄道のサインシステムはツアー参加者の関心の高いところで、皆さん真剣に観察されていました。
世界の自転車大国 少し古い統計になりますが、オランダとデンマークは世界で上位3に入る自転車大国として知られています。日本も少しずつ変わってきましたが、自転車先進国は国を上げて車よりも自転車移動を奨励しています。そのため専用道路や交通ルールがしっかりと整備され、実際に多くの人が自転車で移動していました。その環境を肌で感じるべくデンマークでは市民が有料で利用できる電動アシスト式自転車での観光を試みてみましたが、これが思っていた以上に大変でした。車よりも地位の高い自転車ですから、みんなスピードを出します。ほぼ車のルールと同じで、追い越し(早い人)は右側とか、車線変更や曲がり角では手信号を出すなど、たかが自転車と思いきや慣れるまでは海外でレンタカーを運転するのと同じ感覚です。またサドルの位置が日本人には高すぎて、ほぼつま先立ち状態の運転となり、お尻がかなり痛くなりました。また自転車専用道と歩道の区別がしにくい場所もあり、うっかり入り込むと猛スピードの自転車に轢かれる恐れがあり、観光客も命がけです。
ネオン事情 旧称ネオン協会の会員として、やはりご当地ネオンは最大の注目ポイントでした。日本のようなボーダーネオンは無かったものの、ネオンチャンネルやミニネオンは多く見ることができました。ネオン電極が独特で、太い絶縁チューブが被っていたり、電極を箱内に納めるような仕様が目に留まりました。日本のように煌々と明るい夜の街とは対照的に目を凝らすほど街が暗くなります。街路灯が建物間に張り巡らせたワイヤーに吊るされたナトリウム色の照明だからです。広告や看板の数は少ないものの、街の暗さゆえにネオンが映え、存在感がありました。ただ残念なことに、デンマークの若いサインデザイナーの話では、ネオンはサイン素材よりもオブジェとして使われることが多くなり、自国の職人は減る一方で、隣国ドイツから職人が出張して工事をしているのが現状だそうです。
帰国後の報告会 数カ月が経った後、SDA会員向けにツアーの報告会が開かれ、視察者の中から6名が代表でプレゼンを行いました。私も選ばれ、上記のような話を写真を用いながらプレゼンをしましたが、他のメンバーのプレゼンが非常に勉強になりました。面白いことに、同じ場所に行き、同じ物を見ていたにも関わらず人により視点が全く違っていたのです。ある人はデザインを深く考察し、ある人は言語やピクトなどの伝達方式を、またある人はサインのディテールをと、様々な観点で物を見ることの楽しさを味わうことができ、まさに一粒で二度おいしい海外ツアーでありました。 昨今は協会や得意先で視察ツアーを企画することもめっきり無くなり非常に寂しい限りですが、我が協会青年部では密かにツアーを計画中とのことで今後が楽しみです。 |