陰影(かげ) |
||||||
照明には2種類のかげがあります。一つは見ようとするものの上に落ちるかげで、手暗がりとか、頭や身体のかげで、邪魔になるかげです。邪魔になるかげを少なくするには、光源の位置を変えたり、光源の台数を増やしたり、蛍光灯のように発光面積の大きな光源の使用が適しています。 もう一つは見るものの形が分かるかげで、ものの丸みが分かったり、立体的に見えたりする役に立つかげです。このように、光が物にあたって生じるかげは、物の認識に重要な要素となります。しかし、立体的に見せるかげも光の当て方により、感じ方が随分と違って見えることに注意が必要です。 図01.は彫刻の見え方の相違を比較していて、拡散光で上前方から当てた光が最も良く、次に片側一方向からの光が良く、上下・左右から同時に当てた光は立体感に乏しく、最も悪いと考えられています。また上からの光は、人間が昼間に活動する光と同じ様に最も自然に感じることができます。
図02.は同じ写真を上下逆さまにしてあるだけですが、凹凸部分が逆に感じられる不思議な図です。 かなり暗い環境であっても、図03.の写真のヤシの木のように、明るい背景に対しモノを影として現し、その存在をはっきり示すことができます。道路照明のように照明範囲が広く経済性から高照度にできないところではこの効果を利用します。具体的には道路面を明るい背景にして障害物を影で見せ、障害物の存在を明らかにする、この効果はシルエット効果といわれています。
まだ電灯がなかった時代の今日と違った美の感覚を論じたもので、谷崎潤一郎氏随筆の「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」の考え方があります。当時西洋では可能な限り部屋明るくし、陰翳を消す事に執着したが、日本ではむしろ陰翳を認め、それを利用する事で陰翳の中でこそ生える芸術を作り上げたのであり、それこそが日本古来の芸術の特徴だと主張しているものです。こうした主張のもと、建築、照明、紙、食器、食べ物、化粧、能や歌舞伎の衣装など、多岐にわたって陰翳の考察がなされています。 環境配慮、景観調和、日本的なデザインなどを考えていく上で、時にはこういった視点からデザインを、あかりを、見つめ直していくことも必要であると考えます。 |