点滅希

 
 「もったいない」は苦しい 
    

 「もったいない」という言葉は日本独特のもので諸外国には見当たらないそうだ。幼少期、母親から「誰それは便所に落ちていたご飯粒まで拾って食べた」とよく言われたが、終戦後の食糧難の時代を生き抜いた身としてはそんなことを言われるまでもなく「もったいない」は身についていた。最近まで駅弁の蓋についたご飯粒は一粒残らず箸でつまんで食べたし、インスタントラーメンの袋のくずは全部鍋に入れた。
 でも、最近は食べる量が減ってきた。すし屋の一人前が多すぎるし、うどんも一玉は食べきれないで残す。まさか、残った分を次の食事のときに食べるわけにもいかないから、もったいないと思いつつ捨てることになる。若い時は腹いっぱい食べることが人生の喜びで、「満腹、満腹」と言いながら腹をさすったものだが、今はその満腹感が苦しい。我慢して全部食べると胃もたれがする。「もったいない」の信条は捨てざるを得ない。
 古いものを大事に使うことも難しくなった。新しいものがどんどん出てくると、まだ使えるものも買い替えるが、古いものを捨てられない。家には使わないものやもう着ないものがどんどんたまっていく。これも信条の宗旨替えを迫られる。

(愚庵)

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