ネオンは消えておりますが、周囲には大きな看板が立ち並んでおります。「東芝ラジオ」「アトラス毛糸」「清酒ハクツル」。一つ一つの文字が巨大ですので、まるでその漢字やカタカナ自体が、街を襲うゴジラ映画の怪獣のようでもあります。
寝台特急「さくら」を降りた乗客たちが眠そうな目をこすりながら改札へ向かうなか、あまりの物珍しさに徳次はホームから動こうといたしません。
「坊ちゃん、新幹線はどこやろか?」
「新幹線はこの駅には止まらんよ。あれは新大阪」
「へえ、もう一つ駅があると?」
「一つどころか、大阪には十も二十も他の駅があるさ」
「へえ、十も二十も」
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