最前線シリーズ

 

サインディスプレイ業界にも忍び寄る人工知能の波

(株)マスコミ文化協会 川崎玲美
 
 最近、「AI」という言葉をよく聞くようになりました。「AI」とは、「Artificial Intelligence」の頭文字で「人工知能」のことです。2016年、グーグル傘下のディープマインド社が開発した人工知能の囲碁プログラム「AlphaGo(アルファ碁)」が世界トップレベルの実力をもつ韓国のプロ棋士に勝利し、一気に注目されるようになりました。
 「人工知能」は、人工的に作られた、人間と同等の知能という意味です。しかし、今、製品化されている製品や「AlphaGo」はこれとは少し異なるようでこの2つは、「凡用人工知能」と「特化型人工知能」に区別されています。
 人工的に作られた人間の有しているような知性・知能のことを「凡用人工知能」と呼びます。「凡用人工知能」を作り出す技術はまだ存在しません。
 人工知能が注目される動機のひとつとなった囲碁プログラムは「特化型人工知能」と呼ばれ、特定の領域に特化している人工知能です。人間のように、様々な分野で活用できるわけではありませんが、特定の分野で人間以上の力を発揮します。
 これまでにもあった、自動化やビッグデータ解析の技術がAIブームに便乗し、「AI」と名付けて販売しているものもあります。こちらも一応「特化型人工知能」に含まれる技術です。

人工知能が活躍するデジタルサイネージコンテンツ
 そんな中、デジタルサイネージコンテンツにも人工知能(特化型人工知能)が増えています。
 まずは、(株)ティファナ・ドットコムのAI接客システム「AIさくらさん」(以下、さくらさん)を紹介します。すでに渋谷109の中にある雑貨・コスメショップ「SBY」や(株)ビジネスガイド社が主催する展示会「東京インターナショナル・ギフト・ショー」などにも導入されています。
 さくらさんは、例えば、欲しいものや困っていることなどを伝えると教えてくれます。展示会場内に設置された例では、「お腹すいた」と話しかけると近くのレストランを教えてくれました。
 さくらさんはどのようにして受け答えができると思いますか。私は「ここまで技術が進んでいたのか」と驚きましたが、そうではありません。これは、人間がすべて受け答えをあらかじめ入力しています。
 聞かれそうな質問を考え、その答えを前もって数通り用意しておきます。そうすることで、受け答えしているように感じるのです。しかし、これだけではどうしても対応しきれない質問が出てきてしまいます。対応できなかった質問はデータとしてさくらさんに残され、月に1度、答えられなかった質問の回答を追加していきます。また新しい情報なども追加します。そうすることで、どんどん知識が増えていくのです。
 いっぱい話せば人工知能が自然と覚えてくれるんだ!と思っていたのですが、思っていた覚え方と少し違ったようです。
 これは人工知能と言えるのかな、とも思ってしまいますが、私たちも子どもの頃、知らない単語を使って話されると理解できないことがありましたよね。大人になってからも若者の流行り言葉がわからなかったりします。なんとなく、繰り返し聴いているうちにこういう意味なのかな、と自分の中で折り合いをつけるため、言葉の意味を勘違いしている方がたくさんいます。そう考えると、正しい答えを伝えてくれるさくらさんは人間より優れているとも言えるかもしれません。もちろん、さくらさんの設定をする人間が間違えてしまったら元も子もないのですが。
 さくらさんのほかに、ヴィレッジヴァンガード未来科学研究所と(株)モノゴコロが開発した「デジタルAIロボット店員 渋谷めぐる」(以下、渋谷めぐる)も紹介します。
 渋谷めぐるは、2017年7月に新規オープンしたヴィレッジヴァンガード渋谷本店に設置されています。バーチャル店員“教育”システムを活用しており、タブレットやスマートフォンからバーチャル店員に指示を出すことができます。テキスト入力はもちろん、音声入力もできるため、話しかけるようなイメージで指示が出せるので便利です。このように、簡単に指示が出せるため、例えばオススメの本など今すぐ出したい情報を、瞬時に渋谷めぐるに紹介させることができます。
 もちろん、さくらさんと同じく、店舗内の情報などを前もって入れておけば、それらの情報を教えてもらうこともできます。
 確かに、店員さんが忙しそうにしていると、声をかけづらい時もあるので、このようなデジタルサイネージがあると便利かもしれません。また、初対面の人に話しかけるのが苦手という人もいるようです。そういう方にも使ってもらいたいですね。
 他に、ニュースを読み上げるAIも登場しました。
 Specteeは、ディープラーニング(人工知能技術)を活用して、より人に近い音声で原稿の読み上げや、会話ができるAIアナウンサー「荒木 ゆい」をリリースしています。
 荒木ゆいは、実際にアナウンサーが読んでいるニュース音声、約10万件をSpecteeが開発した人工知能エンジン「Spectee AI」で機械学習し、アクセントやイントネーションを習得しています。
 荒木ゆいのすごいところは、原稿を正しく自然に読み上げるだけではなく、日本の様々な難読地名や同形異音語の読み上げ、また読み分けもできるところです。例えば、「日本橋」は東京と大阪に存在しますが、東京の場合は「ニホンバシ」、大阪の場合は「ニッポンバシ」となります。荒木ゆいは、文脈からどちらの「日本橋」について言及しているかを判断し、「ニホンバシ」または「ニッポンバシ」と読み分けることができるのです。
 荒木ゆいを使えば、災害時の長期間放送でも休みなくニュースを読むこともできます。もちろん、デジタルサイネージやビジョンで配信することもできます。
 「栃木県出身、東京の私立大学を卒業後に東京キー局のアナウンサーとして就職、その後フリーとして独立。ニュースからバラエティ番組、ドキュメンタリーのナレーション、イベントの司会など様々なアナウンス業をこなす」という設定まであります。
 現在の人工知能はこのような形です。これからどのようになっていくのか楽しみです。



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