香港・マカオの驚きの竹足場 | ||||||||||||||||||
関東甲信越北陸支部 (株)東京システック 小野利器 | ||||||||||||||||||
9月上旬、昨年に続き青年部による第2回目の海外視察旅行に参加した。行き先は深セン、香港、マカオの中国圏三都市である。中国のシリコンバレーと称される深セン、自由貿易地域で富が集積する香港、そしてカジノで潤うマカオと、熱気に満ちた都市の空気を肌で感じることができた。広告で溢れかえる街並みや、深夜まで途絶えない観光客や買い物客の流れはとても印象的だったが、看板屋として常に気になっていたものがある。それは竹足場だ。今や海外からの旅行者にとっても観光の対象であり、ネット検索すれば多くの映像や情報が入手できる。そこで今回は日本には無い竹足場に焦点をあてて私が目にしたものを紹介したいと思う。 香港やマカオを巡ると街のあちらこちらで工事現場が見られ、竹足場のオンパレードである。日本では近代化に伴い単管や枠組みが主流となったが、ここでは高層建築でもほぼ全てが竹足場によって建てられる。ガラスのカーテンウォールのようなツルンとしたビルが竹で覆われているのにはびっくりした(写真@)。日本でいう朝顔(養生板を道路上空に跳ね出して落下物を防ぐもの)も竹で組まれ、しかもロープで吊っている様にも驚かされた(写真A)。また、遥か上空の高層ビルの屋上広告塔に掛かる足場にも驚いたが、考えてみればこれは日本の丸太足場でもやっていることだった。しかし竹だと不安感がある(写真B)。
竹はまず路面に直に突き立てられ、養生材などは敷かない。控えは何でもよく、その辺にあるものを自由に使う。信号機やガードレールなど公共物でもお構いなしである(写真C)。 竹同士を緊結するものは、針金入りの細いプラスチックバンドである。養生床としてベニヤ板など用いず、これも竹で組む。養生シートは使い回し過ぎてボロボロになった状態をよく見かけ、ひどいものは廃墟と見間違えてしまいそうだ(写真D)。ストライプ柄のビニールシートも多く、これがどうしてもレジャーシートに見えてしまう(写真E)。竹足場は日本の丸太や単管と同じように、主に建地、布、筋かいで構成されているが、掛け方は適当というか、ある意味おおらかである。
何故、香港やマカオでは竹足場ばかりなのか、それには理由がある。まず鋼管は湿気の多いこの地ではすぐに錆びて使い物にならない。現にお隣の深センで見た単管足場は相当錆びていた(写真F)。その中国から竹は大量に格安で仕入れることができる。価格は鋼管の5分の1以下。また竹には軽くて丈夫という材料特性がある。軽いということは、輸送コストや掛け払いのコストを抑えられる利点がある。路上に無造作に置かれた資材もさほど危険性を感じないし、細い結束バンドでも崩れることはない。また、竹は中身が空洞なので、現場に合わせて切断加工がしやすいし、廃棄も容易である。竹は兎に角、経済的にも作業効率的にも非常に理にかなった材料なのである。
竹足場職人の必需品はノコギリ、カッター、緊結バンド、ゴム手袋である。サイズの合わない竹は現場でカットする。ゴム手袋は滑らないためでもあるが、緊結バンドを手で縛るためにも必要な装備。ヘルメットは被らなくてもいいらしいが、さすがに高所では着用している。が、あご紐のない粗末なヘルメットを被る職人も多くいるようだ。日本の鳶に比べて非常に軽装である(写真G)。 足場職人の賃金は一般の工事現場作業員よりも高めではあるが、近年後継者不足が問題になっている。職人の養成学校で実技を学び、4年ほど現場経験を積めば親方レベルになれる。しかし危険を伴い、現場を転々とする職に若者は集まりにくいという。何だか日本と似たような問題ではないか。しかしそうは言っても香港、マカオでは新しいビルが次々に建ち、その分リフォーム工事も生れるので、竹足場無しでは建設業界は成り立たないだろう。ということで、これからもこのイージーな割にはダイナミックな竹足場を我々に見せ続けてくれるものと期待している。 |