サインとデザインのムダ話

 
スマホってすごい。。。!!?
渡辺希理子
エモーショナル・スペース・デザイン デザイナー
空間/施設等の環境グラフィックス、プロダクト/サイン/アート計画
及び企業のBI計画、VI計画、などのデザイン設計を手がける。
渡辺希理子さん

 数え切れないくらい様々な機能を備えていて、たくさんの情報が得られるスマホ、とても便利になりましたよね。至れり尽くせりのスマホの情報を享受して私達の生活はある面、飛躍的に豊かになりました。
 いつでもどこでも通話や通信ができるようになって「駅の伝言板」がいつの間にかなくなっていました。当時は待合せするのも一苦労。「先に行くね!」などとチョークで書いたメッセージ、見てくれるかどうかもわからない…もしかしたら次の電車で来るかもしれない…来るのか来ないのか!?今のようにメールやLINEを送り、既読もしくはOKのスタンプがくれば心配することもなかった。「先に行くね!」と打った文字はみな同じ形をしています。「先に行くね!」と書いた文字には表情が垣間見ることができたような気がします。黒板に荒っぽく書いた手書きのチョークの文字、怒っているのわかったかな!? 今では待ち合わせ相手と出会えないなんてあり得ないですね。
一人一台スマホを持つようになって家電話もほとんど使わなくなりました。
 携帯電話の無かった時代、結婚する前でしたから、まだ彼だった頃の主人が私へ連絡する唯一の手段は自宅の家電話でした。夜遅くに父親が出ないよう祈りつつも出られてしまい気まずいやり取りをしたそうです。長電話にならないように、遅くにかけないように…1回電話することにたくさんのことを考えて気遣って話していたことは携帯電話では味わえないドキドキ感。一人一台スマホを持っていれば何も気にせず、直接本人にかかるのでドキドキすることもないですね。?
 海外に行ったとき、旅先での地図機能の便利さには驚きました。手持ちの地図は小さな文字で英語表記。老眼鏡をかけながら目的地を探すだけで時間がかかり、見知らぬ異国での地下鉄やバスの乗り継ぎを調べることは至難の技。それがスマホに行き先を日本語で入れると現在地から目的地までのルート、到着時刻、乗り継ぎ、施設の情報まで出てきました。混み具合まで予想してくれる。ロンドンでは2階立てバスを巧みに乗り継ぎ目的の場所にスムーズにたどり着く事も容易になり「なんてすごいっ!」まるで地元の人みたい(笑)…なんて。



 しかし地図には地図の良さもあります。目的地にだいぶ遠回りしたからこそ地図で見つけたローカルな素敵なカフェでお茶した事だったり、目的地に色のペンでしるしをつけ、帰るときにはたくさんのしるしを見て楽しかった、こんなに色々なところに行ったのだと思い出すことができました。
 グルメサイトアプリは行きたいお店を検索できてランキングや口コミ、詳細な情報を見たり、予約まで出来て本当に便利なアプリです。それこそ海外では美味しいお店を見つけて、英語で電話しなくてもスマホでポチッと予約までできてしまいました。
 しかしながら便利になった反面、ランキングや口コミ、写真でお店を選ぶ…少々不安もあります。以前出張先でお店を検索し、点数の高い定食屋さんに入ってみました。店構えを見て「ん?」入口にある食品サンプルがホコリまみれで「ん??」でも点数3.6だし、きっと古い老舗の店なんだ、と思い扉を開けてみました。「ん???」お客さんが一人もいない。老夫婦がテレビを見ながら「いらっしゃいませ〜」。いらっしゃいませと言われてしまったので帰るに帰れず一人カウンターに座り、やめておけばよかったのにお刺身定食をたのんでしまった…。私の勘は当たっていました、帰りの飛行機では腹痛でひどい目にあってしまいました。口コミや点数だけを信じるのではなく、自分が直感的に感じたものを信じればよかったと思いました。
 スマホがあればどこにでも行けるし、調べられるし、美味しいものも食べられる。そのうち私たちがデザインしているサインも必要なくなるのでは…と危機を感じてしまう程ですが、機能や便利さだけではない、生活には感性や想像性も必要だと最近、歳をとったからこそ感じる想いがあります。スマホからの情報だけではなく、アナログな世界も大切にしながら両方とうまく付き合っていかなければならない。先人の知恵のように、例えば店先の暖簾をくぐった後に目にする綺麗に磨き込まれた白木のカウンターにおいしい料理が出てくる事を想像する力や、湿っぽい風を感じて明日は雨になると肌が感じる五感や機微。。
 勘を研ぎ澄まして感受性を豊かにし、スマホに頼りきった若者には出来ないデザインをしたいと片手にスマホを持って(笑)思う今日この頃です。


Back

トップページへ戻る



2019 Copyright (c) Japan Sign Association