毛毛がわたしの手を取って走りだす。人波にもまれながらどうにかDJブースにたどり着くと、毛毛がDJの男になにか怒鳴った。ヘッドホンを耳にあてがったDJが、頭でリズムをとりながらうなずく。すると毛毛はさっさと体をかがめてブースの中に入っていった。彼女はとても短いスカートを穿いていたけど、気にする素振りさえ見せなかった。釈然としないまま、わたしもあとにつづく。毛毛が「サンキュー」と言い、DJが親指を立てる。わたしはこのDJの顔を覚えておくことにした。
ブースの裏手にある通用口をぬけて廊下に出る。
「警察に踏みこまれたときの逃げ道よ」わたしの手を取って駆けだす毛毛が言った。「いちおう言っとくけど、さっきのDJはゲイだからね」
地上に出る階段はひとつしかない。廊下の端までくると、毛毛は「合図したら来て」と言い残して、なにくわぬ顔で店のほうへ歩いていった。〈PENTHOUSE〉のピンクのネオンがあたりを薄桃色に染めている。壁を背につけて角からのぞくと、どう見てもディスコって顔じゃない胡乱な連中が店の中へ吸いこまれていくところだった。毛毛が背中に隠した手でわたしを呼ぶ。わたしは角を飛び出し、その手を掴まえて一気に階段を駆け上がった。
わたしたちは大笑いしながら、西門街の人混みを縫って走った。
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