冷えた石畳の古路を、ルイが小股で走っていく。
ネオンきらめく大通りに出ると、租界の夜の喧騒(けんそう)が急に間近に迫ってきた。人々を乗せた緑の路面電車が、ゴォーッと音を立てて通り過ぎる。通りの左右に小売店が連なり、きらびやかなウインドウに、ハンドバックやドレス、シルクハットに燕尾(えんび)服が飾られている。中国語の看板に混じってフランス国旗も夜風にひらひらたなびいている。
大通りの角に、ひときわ派手な黄色のネオンに彩られた高い塔付きの四階建ビル『大世界』が現れた。漢字の電飾が月より明るく夜の街を照らしている。ルイは建物の裏口から、急いで入っていった。
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