ネオンストーリー

 
「あなたという国」
ドリアン助川 (株)新潮社


ニューヨーク・サン・ソウル

 チェルシーのスタジオでバンドの練習を終えた拓人は、自分に課した節約のルールを守り、三十三丁目のコリアンタウンまで徒歩でやってきた。

 マンハッタンのど真ん中でありながら、通りの風景は一変した。おぼろげな摩天楼とは対照的に、ハングルのネオンサインがぎらぎらとひしめき合っていた。拓人にはその派手な連なりが、ここに根を張ろうとする者たちの勢いを示しているかのように感じられてしかたなかった。

 拓人は語学学校のクラスメートであるジンが描いてくれた地図を手に、コリアンタウンの裏路地を二度往復した。チゲ(鍋)料理で有名な大きなレストランの陰に、指定された食堂のエントランスが隠れていたからだ。ようやく店を見つけた拓人は、ダクトから噴き出す甘辛い匂いを浴びながらガラスドアを押しあけた。

 
 

Back

トップページへ



2021 Copyright (c) Japan Sign Association