ロシア支援セミナー 研修生の見た日本のサイン

中国支部(株)しみず工房 清水忠務

 何年か前の支部総会。T大学・N医学博士の講演。演題は『中高年者の健康管理』「皆さん。直角死という言葉をご存知でしょうか」ネオン屋諸氏「???」一瞬、難しい学説を連想する。 「ご存知ないですよね。これ、今私が名付けた造語でございます。どういう事かは順を追ってご説明致します」

 落語家顔負けの風貌とあって、笑わせること40分間。学者の話は、凡そ面白くないのが定説。然し、この先生は違う。拍手拍手、又拍手。そして本題へ。  

「人の生命力は生まれた時をゼロとし、成長と共に右肩上がりとなり、二十歳でピークに達します。それからは次第に高度を下げて参ります。40歳を境に当分水平飛行を続けますが、紙飛行機の様に少し行ってはまた、高度を下げ続けます。そして遺伝子の悪戯に従い、その一生を終わります。もっとも、腹上死という奴もありますがね。専門用語で言うならば、天罰覿面死症候群ですか」

 女性がすかさず拍手。男性もつられて大爆笑。 「症候群とは、そんな類という意味です。近ければ外れではない。この言葉の発明で病名が一気に増えると共に、誤診が随分と減りました。然し、それなりの医学的根拠を用意しておく必要があります。病人どころではありません。こちらの首が危ない」

 万事こんな調子で我々の程度はとうにお見透しと見え、専門用語は一切使わない。「どこで話が逸れたんだ。そうか、若い女性から拍手を頂戴したんで申し訳ない。さて、本題。人は40台半で略寿命は固まります。ですからその辺りで酒や煙草を止めても、もう遅いということです。無理して止めるとイライラホルモンなるものが発生し、色々な所へブレーキを掛けて来ます。それでなくともどうやって滑空距離を延ばそうか、と思っているのに対し、逆効果もあり得る、ということです。墜落症候群にかからない為には、平生の生活に波風を立てないことも重要課題でございます。これも長寿の秘訣なんです。然し、何事も度を越してはいけません」

 流石は名医、釘を差すことも忘れない。「そして誰もが米寿・白寿を、と願う訳でございますが、日頃の行いが良くない方は、何等かの病気にかかり、入退院を繰り返す等、周囲に大迷惑をかけるんです。苦しんだ挙句、天国へ行く様な往生際の悪い事は止めましょう。されば私は皆さんに直角死を目指して頂きたいと思います。生命力グラフの最終は直角ですよ、直角。そうですね、朝ぽっくりという奴。あれは本人も家族も楽で非常によろしい。元気な内にしっかり保険に入っておくことです。そして呑気で陽気でくよくよしない。これも長寿の秘訣である事を提唱し、本日の講演を終わります」

 その夜の親睦会。「直角死を目指しましょう」が合言葉。そして酒を酌み交わす。ほんに他愛のないネオン屋諸氏である。

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