2002年12月、ニューヨーク、タイムズスクウェアの一角に巨大なチョコレート工場が出現―実はその工場とは、世界最大の菓子メーカー、ハーシーフードコーポレーションが立ち上げた新機軸の立体屋外広告看板である。
今回図らずもこの画期的な立体看板を制作したオグルビー&マザー社を訪問し、この看板の企画から製作までを手がけた仕掛け人、ブライアン・コリンズ氏の興味溢れるお話を伺うことができた。
以下、聴取した内容をご報告する。
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訪問日時:2004年4月12日(月) 14:00~15:00 |
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訪問先:オグルビー&マザー社(Ogilvy & Mather Brand
Integration Group) |
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先方説明者:シニアパートナー ブライアン・コリンズ氏(Brian Collins,
Senior Partner, Executive Creative Director) |
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■ オグルビー&マザー社とは
1948年ニューヨーク市マディソン街で当時39歳のデイビッド・オグルビー(David Ogilvy)が創業。「売れる広告の基本は、ブランドの確立にあり」との信念で会社は急発展を遂げた。同社が手がけたブランドにはポンズ、アメックス、シアーズ、フォード、シェル、バービー、コカコーラ、ハーシー、マックスウェル、最近ではIBM、コダック、オリンパスなど枚挙に暇がない。
現在は、J.W.トンプソン、ヒル&ノートンなど60社以上のメンバーで構成される世界的な通信サービス事業グループWPP plcの一員として、デザイン、PR、CI研究、リテールマーケティング、セールスプロモーション、ニューメディアなどの部門を担っている。1年半前に社名をOgilvy
& Mather Brand Integration Groupと変更し、ブランド推進の総合企業としての性格をより鮮明にした。平たく言えば、TV以外の広告関連事業をすべてやっているということであった。
■ 計画の推移
現場はタイムズスクウェアーのブロードウェイと48丁目の交わる角地、この屋外広告として理想的な立地条件の場所に、もはや改築を待つばかりという風情の古びた店がひっそりと営業していた。いうまでもなくこの地区は市のゾーニング規制によってビル壁面を一定の大きさを持つ電飾看板で覆うことになっており、この店とて例外ではない。
コリンズ氏らはこの絶好の状況に着目し、ハーシーチョコレート社に対して、この場所を活用してニューヨークのど真ん中にハーシーチョコレートショップの旗艦店を建設すると共に、世界の観光客を惹きつける21世紀のシンボルとなるような巨大屋外広告を設置する構想を提案した。
ハーシーチョコレート社は、中部ペンシルべニアの農家に生まれたミルトン・ハーシーが1894年創業以来発展を続け、現在では世界で一二を争う総合菓子メーカーに成長したが、その一方で、子宝に恵まれなかったミルトンが、世の中の孤児たちのために私財を投じて一万エーカーの広さを持つ学校を設立し、そこでは1100人に及ぶ生徒が常時教育を受けていることでも、多くの人々の共感を呼んでいる。夢の実現を常に追い求めつつ、常に暖かい気持ちで社会貢献に勤しむ創業者の哲学に即して、コリンズたちは、「もし1915年にミルトンがタイムズスクウェアーにチョコレート工場を建設したら」という基本コンセプトでこの巨大看板の企画を練り上げた。
従って、この看板の特徴は、今流行のLEDの多用を避け、殊更にクラシックなネオンを随所に使用し、メルヘンティックなチョコレート工場を立体的に表現している。店内はクラシックなハーシーチョコレートの包装や装飾で統一されており、屋外広告看板と呼応して、訪れる客にほのぼのとしたノスタルジーを感じさせる効果を挙げている。
写真はハーシータイムズスクウェアー屋外看板 |
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高さ65m、幅18m、タイムズスクウェアーに今まで建設された最大の常設サイン。立体ブレース34基、蒸気発生器4基、送り点滅4,000個以上、可変式点滅灯30基、ネオン文字56、外照式サイン14基(ハーシー社HPより)
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色とりどりのチョコレートで一杯の店内風景 |
■ 屋外広告の未来
ハーシー看板プロジェクトは、企画から完成まで1年、立体看板工作物の製作に4カ月、設置工事に2カ月の時日を要したが、この成功は、掲出場所、クライアント、看板設計など綿密な企画と粘り強い折衝が齎したものである。もちろん、このような看板は、タイムズスクウェアーのこの場所でこそ存在意義があるのであって、同じようなものを別の場所で掲出して成功するとは限らない。
例えば、コリンズ氏が手がけたノースカロライナ州シャーロットのクリニックに納入したビクトリア風逆回り時計など、TPOに応じた掲出看板の企画が決め手となる。
屋外広告には他の広告メディアには真似のできない特殊性があり、その特質を生かした企画をクライアントに積極的に提案することにより、洋々たる未来が開けている。オグルビー社としても、今後ますます企画提案型の屋外広告に全力を挙げ取組んでゆく。人手が足りないので、日本からも優秀な人がおられればスカウトしたいくらいであるとのことであった。
コリンズ氏の指揮の下、オグルビー社の屋外広告グループが、これからもユニークな企画を次々と打ち出して、米国のみならず世界の屋外広告業界に旋風を巻き起こしてくれることを期待して、訪問先を辞去した次第であった。