特別報告

 

ラスベガス市開発局訪問記

ネオンサインで街に賑わいを

  事務局長 加藤保弥


 世界一のエンタテイメントの町ラスベガスは、華やかなネオンサインと巨大広告塔が目を奪う屋外広告のメッカでもあります。このラスベガス市の屋外広告物規制は一体どうなっているのでしょうか。今回の視察団は、この疑問を明らかにすべく、ラスベガス市の担当部門訪問を計画、JTBの協力で実現しました。
 乗り込んでみてまず判明したことは、なんと訪問先の市当局は、電飾アーケードで有名なフリーモントストリート界隈を含むラスベガス市を担当しており、私たちが当初考えていた巨大ホテル、カジノが林立するストリップ大通りの区域はクラーク郡に属していて管轄外とのことでした。
 しかし、前もって当方から質問リストを提出しておいたこともあって、先方担当者の要領を得た説明で、この歴史あるラスベガス市が、地域の賑わいを保ちながら街の美観を維持するため、屋外広告物規制に並々ならぬ努力を傾注していることがよく理解できました。

 特に屋外広告物規制が基本的にポジティブリスト方式(まず全体を禁止し、許可する項目を法令上で明示する規制方法)であることの説明により、わが国の規制が基本的にネガティブリスト方式(まず全体を自由とし、禁止する項目を法令上で明示する規制方法)であることを思うと、煌びやかなうちにも清潔感漂うラスベガス市の繁華街と、ともすれば乱雑な印象を与え勝ちな日本の歓楽街との相違に、図らずも納得させられた次第でした。以下、その内容をご報告します。


1.訪問日時: 2005年3月30日(水)10:00~12:00
2.訪問先: ラスベガス市計画開発局開発サービスセンター(Development Services Center, Planning & Development Dept., City of Las Vegas)
3.先方説明者: 広報官メアリ・クレブン女史(Mary Kleven, Public Information Officer)、上級計画官エディ・ディクター氏(Eddie Dichter, Senior Planner, Current Planning)、都市設計調整・歴史保存担当コートニー・ムーニイ氏(Urban Design Coordinator, Historic Preservation Officer, Comprehensive Planning)
4.説明内容
1.サイン規制の目的
● 地域に適合したサインを確保する。
● 視覚的混乱を低減させる。
● 地域特性強化を支援する。
要は、公共のニーズと周辺空間環境を如何にバランスさせるかにある。
2.規制対象
 許可されているサインの種類と設置地域により(1)数、(2)大きさ、(3)高さ、(4)場所、(5)照明の諸項目を規制対象としている。
3.許可されているサイン
 条例で明示されていないサインの掲出は一般的に禁止されている。条例で許可が明示されている主なサインの種類は、次の通り。 許可されているサインの種類と設置地域により(1)数、(2)大きさ、(3)高さ、(4)場所、(5)照明の諸項目を規制対象としている。
屋上サイン
壁面サイン
窓面サイン
モニュメントサイン(記念碑、墓銘碑式のもの)
メニューボード(ドライブスルーで使用される)
突出しサイン(一定条件下で公道上に張り出せる)
自立サイン(高さ制限通常40フィートだが、緩和条件あり)
ディレクトリーサイン(建物や車道ごとに行き先を案内する)
マーキーサイン(劇場、ホテルなどのひさし看板)
インシデンタルサイン(トイレ、電話、駐車禁止、入口、出口、ATMなど商業的表現を含まない標識看板)
アーケードサイン(商店街などの天井アーケードの下につける)
オーニングサイン(窓外、店先などに設置されるアーケードのサイン)
施設サイン(施設名や団体名をビルの道路面に表示)などなど。
 条例では、これらのサインのそれぞれについて、規制条件が明記されている。明示されていないサイン(例えば置き看板)などは、個別申請により、審査の結果、社会的な妥当性が認められれば許可になる。
4.地域規制(ゾーニングシステム)

 ゾーニングコードで定められたそれぞれの区域毎に、相応しいサインが掲出されるよう規制している。商業地域、住居地域、工業地域、開発地域などの大分類を基本に更にこれらを細分化し、また組み合わせて、地域の特性に適合した規制条件を上記サインの種類に応じてキメ細かく定めている。
5.ビルボードの規制
 ビルボードは環境への配慮が特に必要であることから、他のサインと異なり市議会の承認を必要とする。計画開発局は市議会の専門委員会や市民が参加する審議会などに出席して随時意見具申をする。掲出されるビルボードとビルボードとの間隔が常に問題になる。
6.特別区域の設定
 上記地域区分に拘らず、一部の区域を特別区域として、それぞれの区域特性に適合した規制、指導を行っている。
 新開地のセンテニアル丘タウンセンター区域ではサインの露出を抑制し、商業地域でもネオンサインを厳しく制限している。
 逆に下町カジノ遊戯区域(フリーモントストリートのある区域)ではネオンサインや動きのあるサインを奨励している。具体的には、サインの数を無制限としたり、最大面積を1500平方フィートに拡大したり、サインの場所の最低50%をネオンとするよう指導している。この区域においては、サインは「光の渓谷」とでも称すべき歴史的な区域特性を反映する役割を果たすことが求められている。
 また2002年にネバダ州によってラスベガス横道遊戯区域と指定された通りでは、ネオンサインが望ましいとされており、総ての新設サインはネオン又は動きのあるサインでなければならないとされている一方、新規のビルボードは許可されない。この区域は車中心のストリップ大通りとは対照的に歩行者中心の通りであり、ネオンサインの点滅する歴史的な街の雰囲気を残すことが重要と考えている。
7.ネオン博物館建設運動
 ラスベガスの歴史的なネオン広告を保存すべく、ネオン博物館の建設運動を応援している。市は使用済みのサイン看板を保存しておく土地を提供した。(ネオン博物館については前号VOL.89参照)
8.質疑応答
置き看板は身体障害者への迷惑や交通法規との関連もあり、イベントなどでどうしても必要であるとして許可される場合を除き、認めていない。
サイン掲出にかかわる税金は掲出時1回限り納付する。申請から許可までの期間は、普通のビル壁面広告で1〜2週間、ビルボードなど大型看板など議会承認を要するものでは、委員会や審議会などの議論が続いて3〜4ヶ月かかるということもある。
屋外広告の景観面の規制は計画開発局だが、安全面の規制は建築安全局の担当である。
デザイン、色などの規制はないが、市民からの意見を常に反映するよう対応している。
審議会委員は市長が任命するが、自薦、他薦の方法もきちんと定められている。
説明の中で「ネオンまたは動きのあるサインが望ましい」と言ったが、これにはLEDは含まれていない。この街はネオンについてこだわりがある。
ビルボードに関しては、法令でメンテナンスを細かく義務付けている。また、違法看板については、市にサイン検査官制度があり、例えば壊れたまま放置されている看板などには、処置命令が出るほか違反金が課せられる。
日本からこのような制度調査を目的としたミッションの来訪は初めてである。
 
<写真:ラスベガス市計画開発局での会議風景>

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