「土の中の子供」 |
中村文則 文藝春秋 (本年度芥川賞受賞)
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池袋駅の東口、西武池袋線の出口前は、平日にもかかわらず人の流れが絶えなかった。慌ただしく、騒々しく、あらゆる人間があらゆる方向へと入り乱れ、薄っすらと青みがかった夕暮れの暗がりの中、無数のネオンが主張するように、しかしまだぼんやりと辺りを照らし始めていた。昔、こういう人込みの中にいると自分だけが外れているような気がし、嫌な気分になった。何というか、人の集合が得体の知れない巨大なモヤのように見え、自分に迫るような、そんな圧迫感を感じることがあった。今もそうだろうか、考えたが、よくわからなかった。退院して間もなかったが、力を入れなければ、歩いても首に痛みはなかった。私は煙草に火を点け、待ち合わせているヤマネさんの姿を目で探した。
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