ブータンでもっとも驚いたのは建築物の立派なことだった。ゾンと呼ばれ、政庁と仏教寺院を一緒にした城砦建築の見事さにも圧倒されたが、民家のたたずまいが素晴らしい。まるで雅趣豊かな貴族の別荘といった風情なのだ。
木造の柱、梁を細かな装飾文様で埋め尽くし、塗壁には様々な吉祥紋が描かれている。これは仏教に関連する象徴的な絵柄で、一つ一つが説話的な意味を持つ。ブータン人の信仰の深さがしのばれる。
この国で2番目に大きい町パロの郊外を歩いていたら、ふと農家の壁が目に留まった。入り口両脇に描いた羽の生えた化け物の下にある棒のようなものが何かに似ているとおもったら何と何と…。ひらひらする聖なる布が巻かれているのがご愛嬌。ポーとよばれ、この家の魔よけなのだ。もっとも、これはかなりパターン化されている。
バスで走っていると、沿道の農家に畳一枚ぐらいの大きさで歌麿も顔負けの巨大かつリアルなやつが描かれていて度肝を抜かされた。木彫りにしたポーが家の軒先に吊るされていたり、道端に案山子のように立っていたりする。まさに、ブータンはポーに満ちている。