World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.106  歴史の残滓
歴史の残滓

 1989年11月9日、ベルリンの壁が突如として壊され、東西ドイツ融合の大きな一歩を歩みだした。この壁は東西分断と冷戦の象徴でもあったが、崩壊は逆に社会主義社会の壊滅を強く意識させる結果となった。ブランデンブルグ門を背景にハンマーを振るう若者たちを映すテレビ映像はそれを目にした世界の人々に歴史が塗り替えられる瞬間をはっきりと意識させた。
 それからちょうど20年を経た現在、歴史的事件は忘却のかなたに消え去ろうとしている。ベルリン市民も観光客も何事もなかったかのようにこの門を行きかい、世界は平穏に見える。
 しかし、その歴史の記憶を呼び覚ましてくれるものが一つだけあった。白線の歩行者ラインに直行し、ブランデンブルグ門に平行して埋め込んだ石のブロックラインがそれで、かつてこの上に築かれていた壁の存在を教えてくれていた。車がその上を走るとき、注意深くしていればかすかにコツンと震動でも伝えてくれる。
 そんなささやかな印が過去の歴史を未来に伝えてくれている。

 





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