出発1カ月前のチリ地震にはヒヤッとした。モアイ像のあるイースター島はこの国に属する。これで念願のツアーが中止になっては大変だ。
首都サンチャゴには被害の傷痕が随所に見られたものの予想していたほどではなかった。問題は国内空港の発着場にあった。未だに仮設テントで営業していて待合スペースもない。早朝の野天は寒く、出発便を待つ時間がこたえた。すぐ目の前には丸いドーム状の近代ビルがそびえ、そこが本来の発着待合場とのことだった。
島からの帰還時、そのビルをのぞいたら中央に色とりどりの旅行トランクを積み重ねた不思議なオブジェがそそり立っていた。空の玄関口に旅行カバンの装飾とは似合いの着想ではないか。丸いガラス天井の下、明るい無人の空間に、今にも崩れそうな危うさでバランスを保つその光景は奇観というほかなかった。中に心棒が通されているには違いないだろうが、それにしても今度の地震でよくも倒壊しなかったものだ。五重塔と同じ原理で柔構造の賜物なのだろう。無人の大空間における奇妙なしつらえは何かSF映画の一シーンを見るような心持であった。