World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.126  イスの記憶
イスの記憶

 ヒトラーが世界制覇の野望を抱き、先ず初めに攻め込んだのは隣国ポーランドだった。 この国のすべての都市がかつての姿をとどめないほど破壊されつくされた中、古都クラコフだけは攻撃を免れた。ここにナチスの司令部が置かれたからだ。映画「シンドラーのリスト」も「戦場のピアニスト」もこの地で撮影された。そればかりかシンドラーがユダヤ人を雇って操業していた工場の建物がいまだ存在しているのだ。
 ユダヤ人が閉じ込められたゲットーの跡地が記念に残されていた。さして広くもない土地に6万5千人もの人々が生活していたというからびっくりした。
 その場所の記憶として置かれたのが整然と並べられたイスだった。それは子供たちがゲットーに引っ越しするとき、学校で今まで使っていたイスを自分たちで運んだことにちなんだものだった。そんな子供たちも全員収容所に送られ死んでいったのだろう。
 広場いっぱいに配置された大きな鉄のイスはかつて子供たちが腰かけた小さな木製のイスを模したものであり、妙に生々しく感じられた。

 





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