ウクライナのヤルタという地名に何か聞き覚えのある響きを感じた。それもそのはず、太平洋戦争の末期、日本にとっては屈辱のソ連の参戦と北方4島のソ連への帰属が密約されたのがこのヤルタにおける会談だった。
この国を代表する保養地であり、会談の舞台となったリヴァディア宮殿は処刑された皇帝ニコライの夏の別荘でもあった。集まったルーズベルト、チャーチル、スターリンの三首脳はここでお互いの腹のうちを探り合った。邸内には銃殺された生前の皇帝と娘たちの晴れやかな写真がたくさん飾られていて歴史の不思議な巡り合わせを強く感じた。
黒海を見下ろす庭園には大理石で造られた数頭のライオンが据えられていた。そのうちの一頭が珍しくも眠っているのだ。百獣の王といえど寝顔はあどけない。チャーチルがこの像をいたく気に入り、会談を終えたら持って帰りたいとまで言ったとか。しかし、今も据えられているところを見るとその願いは叶えられなかったようだ。スターリンの冷たい拒否に遭ったのだろう。
夕食はこの宮殿の別館レストランだった。内装と食器だけは立派だがマナーの悪いウエイトレスとお粗末な料理のアンバランスぶりが印象に残った。 |