もう三十年近くも前になるが岩波ホールで「芙蓉鎮」という中国映画が上映された。その映画に出てくる山あいの町と石畳の坂道のたたずまいが周囲の家並みとあいまっていかにも古風で中国的な風情をかもし出していた。私は是非そこを訪れてみたいと思い、地図を調べた。しかし、芙蓉鎮はどうしても見つけることが出来なかった。
ところが昨年武陵源(VOI .160)を旅したとき、その芙蓉鎮に案内されたのだ。町は本来別の名前だったのが映画の人気にあやかって芙蓉鎮と改名されていたのだ。
映画は文化大革命をはさみ、その以前から以後まで政治に翻弄され、過酷な人生を行きぬく人々を描いていた。労働処分として竹ほうきで毎朝階段を掃除させられる主人公が何度も映し出される。泡雪の降る階段のシーンがとりわけ印象深かった。
町のはずれには大きな川があり、素晴らしい滝が流れる景勝地だった。映画のシーンに出てきた石畳の坂道にめぐり合ったときは感激した。しかし、その道は半ば観光化されていて、両脇の家々はほとんどがみやげ物屋になっていた。私はあちらこちらに映画の片鱗を求めて道をたどった。