World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.167  四万分の一の最高傑作
四万分の一の最高傑作
 ノルウェーのアーティストと言って真っ先に思い浮かべるのは、おそらく「ムンク」であろう。そしてムンクといえば著名な「あの絵」だ。橋の途中で頭を抱える人を描いた「叫び」は、一度目にしたら忘れられないほど印象深い。
 男でも女でもない年齢不詳の人物、ホラーっぽいと言えばそれまでだが、人はこの人物に自分を見てしまうのではないか。人間だれしもが持つ不安な気持ち、どうしてよいかわからなくなって、思わす叫び出したくなってしまう錯乱した状態を、めまいを起こしそうな「叫び」は見事に表している。
 コペンハーゲンで乗り換えオスロの空港に到着すると、真っ先に出迎えてくれたのが、まさに巨大なバナーになったそれだった。鉄道駅で列車を待っていると、到着した車両にもあの顔がデカデカと描かれている。よく見ると二つの絵はディテールが違うのだが、それはこの作品が、同じタイトル、同じ構図で、油彩、版画、パステル、テンペラなど五つの技法で描かれていることに由来する。ムンクはこれほどまでにこの絵にこだわった。四万点もの作品を残した多作な画家であったにもかかわらず。
 「叫び」は、北の果ての国ノルウェーの「サイン」なのだ。そして、いつの時代も人の心をゆさぶる。
宮崎 桂





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