オーストラリアのシンボルといえばシドニーのオペラハウスのあの独特な外観が思い浮かぶ。船の帆というイメージが強すぎるせいか、白い幕を張った建築構造だと思い込んでいる人も少なくない。しかし実際は幾つもの巨大なコンクリート壁を絶妙なバランスで積み上げている重厚な構造だ。表面は細かくデザイン貼りされたタイルで覆われ、快晴の日にはまさに純白の帆のように見える。
1954年の設計コンペにおいて、当時無名の若者だったデンマーク出身の建築家ヨーン・ウツソンの案が選ばれた。ところが建築は困難を極め、予定工期から10年も遅れ、予算は14倍に膨れ上がる結果となった。その間、政治情勢に翻弄されたウツソンは設計担当を解かれるという悲劇も起きている。そんな紆余曲折のドラマによって今日の佇まいがあるとは感慨深い。
シドニーでは毎年秋に「ヴィヴィッド シドニー」という街をあげての光の祭典が行われる。目玉はオペラハウスのプロジェクションマッピングだ。昼間は純白な帆のキャンバスがやがて夕日に染まり、夜のお祭りを演出する巨大スクリーンと化す様は圧巻である。