「路上観察学会」というのをご存知だろうか。べつに学問を極めるたいそうな会ではない。前衛芸術家にして作家でもある赤瀬川原平を首謀者として、「看板建築」の名づけ親で知られる藤森照信、イラストレーターの南伸坊、杉浦日向子に林丈二といった一風かわった連中が名を連ねる一種の道楽の会である。街を歩きながら路上や建物に付随する不思議な物件や事象を観察収集することを目的としている。屋根瓦、植木、看板、ガードレール等々あらゆるモノがその対象となる。メンバーの観察眼の鋭さと収集にかける意気込みはなかなかのものである。
異国を旅する人たちのほとんどはこの路上観察学会の一員になったような気分ではなかろうか。
コペンハーゲンの街をそんな目つきで歩き回っていたら、不思議な「物件」にお目にかかった。近代ビルの一角に取りつけられた数本のネオンチューブの組合せがそれ。サインというには首をかしげざるを得ず、ビルの装飾にしては中途半端。これはなんの目的で造ったものだろうか。形体はわが国で昔見られた温泉マークに似ていなくもなく、私にはネオン好きのオーナーが遊び心で造り上げたネオンオブジェのように思えた。見知らぬ街でこんな些細な”発見”をし、考えをめぐらすことも旅の楽しみの一つだ。 |